第8章 第1層~第10層 その7 "一区切り"
「行っくぜえぇぇぇ!!どおぉぉりゃあぁぁ!!」
自身の持つ釣竿を思いっきり振り切り、糸の先端がそこそこ遠い位置に着水した
力の入れ具合にしては、ショボくれた着水音だと言いたい
「……よし」
何に満足したのか、満足気に立つ彼の後ろに立つ
改めて見ると……何て呑気な図なのだろうか
方や時に船を移動しつつ、時折現れるボスに確実に一撃を決めなくてはと意気込み、緊張する一団
方や釣糸を垂らし、ボスがかかるのを待つ私達
一応緊張感はある
緊張感はあるが、向こうとは確実に違う
しかも向こうから見れば、ただの馬鹿だろう
自分達は文字通り命懸けでやっているというのに、同じ場所で阿呆の如く釣りをしている
イライラされても、致し方あるまい
当の釣り人―ケンタは仙人のような穏やかな表情で大海原を臨んでいる
釣糸は…まだ揺れない
「何でも良いけど、その顔は必要ないんじゃない?」
「………」
不意に疑問を彼にぶつけたが、返答は無い
質問が急過ぎたのか、それともこの彼は極度に集中しているか…まぁどちらでも良いが、この仙人みたいな顔を殴りたくなる衝動に駆られそうになるのを実感し、視線を釣糸へ動かす
今だ何かがかかる気配を見せない釣糸は水面が行う光の反射で、たまに消えたように見える
本当にこの方法で来るのか
周りを見回すと、他のプレイヤーが目に入る
彼等もまた、ボスを探そうと緊張を保ちながら水面を窺ったり、周りを見回している
どうやら結局我慢の戦いなのだろう
そう考えた時、水面が―揺れた