第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
少ししてエリーが自分から顔を離した
瞳はまだ潤み赤みを帯びていたが、もう大丈夫という事なのだろう
だからこそ私は聞かなくてはならない―そして言わなくてはならない
そう思った時、先にエリーが口を開いた
「ごめんなさい」
静かに短く出た謝罪の言葉
私はすぐに何も言わなかったが、エリーは更に続けた
「六層の時…怖かった。リリィがリリィじゃなくて。だから、あんな事にならなくても良いように…私が本気出せば、大丈夫って…」
そこでエリーは言葉を詰まらせた
だが、何となく分かった
第六層ボス戦―その際の私の無茶が、彼女をそうさせた
私があの時、私である事を一時でも失ってしまったから…だとするなら、全く私のせいではないか
「ごめんね…怖がらせちゃって…」
エリーがまた顔を埋め、擦り付けるかのように首を横に振る
しかし私はこれを無視して、言葉を続けた
「私、あの時の事で部長に怒られちゃった」
「…知ってる」
さいですか
くぐもった返答から、やはり聞いていたかと思いつつも、私は更に続けた
「私ね、死にたくないの。でも、誰かが死ぬのを見るのはもっと嫌。だから、一人であんな真似しちゃったんだけど…助けるのに何で一人でやったんだろうって今更ながら思うの」
現実でもレスキュー的な何かをしている人は必ず複数人だ
一人で行う人は基本、いない
なのに私は一人だった
「多分…誰かが死ぬのを見たくないって私の考えっていうか願いっていうか…信じてもらえるって信じてなかったんだろうね。自分一人の願いなんて信じられるか不安だから、たまに変な事しちゃう。その結果が第六層の私で、今のエリー」
願いだ意思だと言っても、結局始めは自分一人の中にしか存在しない
それを表に出した時に、受け入れられもするが、拒絶されたりもする
しかも、現代は拒絶よりももっと受け入れられない無関心が存在する
それを私達は何処かで理解し、自分の中に抑え込んでしまう
抑え込まれた願いは、拒絶されるかもというネガティブな期待に包まれ、次第に表に出す為の―他人への信頼を忘れてしまう