第5章 第1層~第10層 その4 "ここまで"
それからネリーは勝手に色々語りだしたが、それを聞いているよりかは私達はデータが無くなる、という事への不安と戦っていた
これまでの戦い、特にボス戦で参加したプレイヤーのほぼ全てが生きているという状況には彼女のデータ無しには語れない
それが無くなるという事は、死亡者が一気に増える可能性がある―そこには勿論、私達も含まれる
それを考えていた事を察されたのか、ネリーはそれまでの語りを止め、元来た道を歩みだした
「まぁ、色々あるでしょうけど大丈夫よ。確実に試作版よりかは先に行けるでしょうからね」
軽く手を振って去るネリーの背中を見つめるしかなく、社の周りに私達は残される事となった
「……戻るぞ、ここで立ち往生してもしょうがねぇだろ。なぁ、キョウヤ」
「あ、あぁ。そうだな」
ややあって口を開いたシンジ先輩に部長が頷く
そうして、私達も街への帰路についた訳だが空気は少し重かった
この事を公表すべきかとも考えたが、そうするならどう言うべきか…とか要らぬ事まで考えてしまい、結局答えは出なかった
それどころか、何故ネリーはそれをまだ公表しないのかとか、もっと答えの出なさそうな問題を考えてしまう
何かあっての事か…それなら何かとは何か…
(駄目だ…休もう…)
考えが纏まらないまま、疲れだけが溜まる
このままでは戦いに響くと判断し、その日は考えるのを止めて休息に入る事にした
寝ればとりあえず休まる―それが今の安心所ではあるのが救いに感じられた