第1章 ここから始まる物語[R18]
「今後一切奴には近付くなよ?マジでヤバいからあの子。つーかもうアレだ、お前ずっと家の中にいろ。そして俺だけを見てろ」
高級酢昆布目当てに大手百貨店に辿り着いた私達。
坂田さんはさっきから仕切りに同じ台詞を繰り返している。
『近付くも何も…ていうか私、坂田さん家に住むなんて一言も言ってませんけど…』
「んだよつれねェな。それに坂田さんじゃなくて“銀さん”だろ?俺達もう他人じゃないんだから」
『いや他人だよね。むしろ2、3時間前に出会ったばっかりだよね』
「人を愛すのに時間なんかいらねェよ。恋はいつだって嵐のように突然やってくるもんだぜ」
聞いてるこっちが恥ずかしくなる様なキザな台詞。
見かけによらずロマンチストな一面を持ち合わせているようだ。
『じゃあ要するに坂田…ぎ、銀さんは…私に、その』
私はモゴモゴと言葉を濁す。
いざ言葉に出すとなると恥ずかしい。それに、もしかしたらただの自惚れかもしれないし。
「そうだよ」
『えっ…?』
「一目惚れ。しました、お前に」
妙なところで台詞を切りながら話す銀さん。その口元には得意のニヒルな笑みを浮かべている。
でも、見えてるよ。
フワフワの銀髪から覗く真っ赤な耳が。
『…ふふ』
「何、そんなに嬉しい?」
『いやそういう訳じゃありません』
「うん。せめて即答はやめよう銀さん傷付くから、グラスオブマイハートがブロークンしちゃうから」
私はくどい台詞回しで愚痴る銀さんの胸にちょん、と人差し指を当てた。
突然の行動に銀さんは問いたげな顔をしている。
『存外に可愛らしい御人なんですね』
「は?」
『私、働きます。その代わり依頼はちゃんと受けて下さいね』
銀さんは私の唐突な返事にポカンとしていた。
本当にOKするなんて思ってもみなかったという顔だ。
理由は、ある。
面白い人だと思ったから。
俺様で荒々しいのかと思えば意外とロマンチストだし、それでいて照れを隠すのが下手な可愛い人。
そんな銀さんともう少し一緒に居てみたいと思った。
「ちょ、え、マジでか?マジでいいの?」
声を弾ませる銀さんにニコリと微笑みを返す。私の新たな人生はこの日、此処かぶき町で幕を開けた。
第一章[ここから始まる物語]完