第16章 雄英文化祭編
彼女が笑っていれば目で追う。誰かと親しげに話していれば気になる。轟が当たり前のように隣に立っているのを見ると、無性に面白くねぇ。緑谷が心配そうに声をかけていれば、余計なことを考える前に自分が割って入りたくなる。
我ながら、面倒くせぇ男になったものだ。
だが、好きだと認めてしまった以上、今さら引き返すつもりもなかった。
そもそも、自分はそういう人間だ。
欲しいと思ったものを簡単に諦める気はない。できない理由を並べるより、どうすれば手に入るかを考える。真正面からぶつかって、何度拒まれようが食らいつく。それが爆豪勝己という男のやり方だった。
ふと、母親の顔が頭に浮かんだ。
以前、両親の馴れ初めを聞かされたことがある。
職場恋愛だった二人。どうやら、先に惚れたのは母親の方だったらしい。気に入った男を見つけた母親が、遠慮もなく猛烈な勢いでアプローチをかけ続け、押しに弱い父親がとうとう折れた。そんな話だった。
当時は、なんて気持ち悪い恋愛話だと思った。
よくもまあ、そこまでしつこくできるもんだ。相手の気持ちも考えろよ。そもそも、そこまで必死になる必要があんのか。
そう思っていた。
――ああ、クソ。
今になって、ようやく理解した。
自分のやっていることは、あの母親とそっくりじゃねぇか。
気に入った女に真正面からぶつかって、反応を見て、隙を見つけては距離を詰める。嫌がられていないと分かれば、さらに踏み込む。簡単に引き下がる気など毛頭ない。
違うのは、母親が父親を追いかけたように、自分もまた、たった一人の女に振り回されているということくらいか。
いや、振り回されているというのも癪だ。
こっちが勝手に夢中になっているだけだと認めるのは、もっと癪だった。
それでも、さっきのことを思い出すと、どうしたって口元が緩みそうになる。
屋上で、彼女を抱きしめた。
突然のことだった。自分でも、あそこまで自然に身体が動くとは思っていなかった。彼女がタバコを消したのを見て、気づけば手を取っていた。そのまま腕の中に引き寄せて、抱きしめた。
驚いていたくせに、彼女は本気で拒まなかった。
それどころか、胸元に顔を埋めても、逃げようとはしなかった。
……あれで完全に、自分に引き込めたと思っちまった。