第16章 雄英文化祭編
屋上を出る頃には、すっかり夕日が傾いていた。
爆豪勝己は、ひどく満足そうな顔でおもちの隣を歩いていた。
その表情が、どうにも腹立たしい。
「……勝己くん」
「あ?」
「随分とご機嫌ね?」
「別に」
「そう。私には、何かいいことがあった人の顔に見えるけれど」
「気のせいだろ」
そう言いながら、爆豪は口元を緩めている。
まったく隠せていなかった。
おもちは隣を歩く彼をじろりとにらみつけた。
「……本当に、調子に乗っているわね」
「何がだよ」
「自覚がないのなら、なおさら質が悪いわ」
「ハッ。嫌なら振りほどきゃよかっただろ」
「……っ」
あまりにも堂々と言い返され、おもちは言葉に詰まった。
確かに、嫌ではなかった。
それがまた、悔しい。
あの強引な抱擁も、普段の彼からは想像もつかないほど優しかった腕も。
そして何より、彼が自分に向けてくる、あの真っすぐな眼差しも。
不意打ちにしては、破壊力がありすぎた。
「……あなたねぇ」
「なんだよ」
「もう少し、恥じらいというものを持ったらどうなの?」
「は?なんで俺が恥ずかしがんなきゃなんねぇんだよ」
爆豪は心底不思議そうな顔をした。
「好きな女を抱きしめて何が悪ぃ」
「…………」
おもちの足が止まった。
爆豪も数歩先で立ち止まり、振り返る。
「……なんだよ」
「……いえ」
彼女はこめかみを押さえた。
駄目だ。
この男、あまりにも直球すぎる。
普段の爆豪なら、気に入らないことがあれば怒鳴り、誰かにからかわれれば即座に噛みつき、素直に褒めることすら滅多にない。
それなのに、二人きりになった途端、どうしてこうも遠慮がなくなるのだろう。
好きだと認めたら最後、ためらうという選択肢そのものが消えてしまったかのようだった。
「……何考えてんだ?」
「あなたのことよ」
「……!」
爆豪の目が、わずかに見開かれる。
けれど、次の瞬間には、にやりと口角を上げた。
「へぇ。俺のこと考えてんのか」
「そういう意味ではないわ」
「どういう意味だよ」
「……本当に、面倒な人ね」
「今さらだろ」
即答だった。
おもちは思わず目を閉じた。