第16章 雄英文化祭編
「……君は、本当に諦めが悪いのね」
おもちは、困ったように微笑んだ。
「分かってんじゃねえか」
「はぁ…」
「で、テメェはどうなんだよ」
「?」
「俺に抱きしめられて、嫌なのか」
その問いかけは、思いのほか真剣だった。
おもちは、すぐには答えなかった。
腕の中から彼を見上げる。
夕日に染まる赤い瞳。
いつもは強気で、乱暴で、誰にも弱みを見せない男。
けれど今は、彼女の答えを待っている。
その表情に、彼女はふっと笑った。
「……嫌だったら、とっくに逃げているわ」
爆豪の目が、わずかに見開かれる。
「……そうかよ」
「ええ」
おもちは、そっと彼の胸元に手を置いた。
そして、ほんの少しだけ身体を預ける。
「でも、あまり調子に乗らないでね?」
「……あ?」
「大人を甘く見てると、痛い目みるわよ?」
艶やかな笑みを浮かべて告げる。
いつもの、相手の反応を見透かすような表情。
けれど、頬には夕日の色だけではない赤みが差していた。
爆豪はそれを見逃さなかった。
「……子ども扱いすんな」
彼は再び彼女の胸に顔を擦り寄せた。
柔らかい感触を確かめるように何度も何度も押し付ける。
「やらけぇな」
「君ねぇ…」
困ったようにため息を吐くと、爆豪の赤い瞳と目が合う。
真剣な眼差しに根負けしてしまう。
今度は、おもちも抵抗しなかった。
夕暮れの屋上。
文化祭の余韻が静かに残る空の下で、二人はしばらく、そのまま寄り添っていた。
――ただし。
この男が一度本気になったら、どれほど面倒なことになるのか。
おもちは、まだ本当の意味では理解していなかった。