第16章 雄英文化祭編
そうだった。
この男は、今さらどうにかなるような相手ではない。
一度自分の気持ちを認めてしまえば、そこから先は一直線。
相手の反応を窺いながら少しずつ距離を縮める、などという器用な真似はしないのだろう。
いや、できないというより、する気がないのかもしれない。
「……はぁ」
小さくため息をついて歩き出すと、爆豪がすぐに隣へ並んだ。
その距離が、妙に近い。
肩が触れそうなほど近いくせに、本人はまるで気にしていない。
「……近いわ」
「道が狭ぇんだよ」
「十分に広いでしょう」
「うるせぇ」
そう言いながら、爆豪は離れなかった。
むしろ、彼女が少し距離を取ろうとすると、自然な動作で歩幅を合わせてくる。
その顔には、先ほどの抱擁を思い出しているとしか思えない、満足げな余裕が浮かんでいた。
――まさか、あれほど満足そうにされるとは。
おもちは、内心で頭を抱えた。
彼女はこれまで、数え切れないほどの人間と関わってきた。
任務では相手の性格を見抜き、言葉の裏を読み、どんな状況でも冷静に判断することを求められてきた。
相手が何を望み、何を恐れ、どう動くのか。
それを分析することは、得意なはずだった。
けれど。
目の前の男だけは、どうにも勝手が違う。
普段は短気で、口が悪くて、攻撃的。
なのに、二人きりになると、こちらの反応を楽しむように距離を詰めてくる。
抱きしめる腕は優しいくせに、簡単には離してくれない。
こちらが照れれば嬉しそうに笑い、困ればますます面白がる。
そして、何より厄介なのは。
彼の言葉に、少しも嘘が感じられないことだった。
「……勝己くん」
「ん?」
「あなた、普段と二人きりのときで、性格が違いすぎない?」
「はぁ?」
爆豪は心外だとばかりに眉をひそめた。
「どこがだよ」
「全部よ」
「意味分かんねぇ」
「私も分からないから困っているの」
おもちは真顔で答えた。
「クラスでは、あれほど誰に対しても容赦がないのに。二人きりになると、どうしてあんなに……」
言いかけて、口をつぐむ。