第16章 雄英文化祭編
雄英高校の敷地内にある自然公園。
文化祭の喧騒から少し離れた木々の間を、四人の親子がゆっくりと歩いていた。
先ほどまで人混みの中で迷子になっていた三人の少年たちは、今ではすっかり安心しきった様子で、母親の周りを歩いている。
長男は、時折、隣を歩く母親の顔を見上げていた。
金色の長い髪が、木漏れ日を受けて柔らかく輝いている。
――本当に、ママだった。
いつも家で見ている母親と同じ顔。同じ声。同じ、優しい笑顔。
けれど、今日会った母親は、いつもよりずっと若かった。
当然だ。
ここは、まだ自分たちが生まれる前の時代なのだから。
長男の個性が思いがけず発動し、兄弟三人と妹は、未来から過去へと飛ばされてしまった。
最初は何が起きたのか分からず、双子も妹も泣きそうになっていた。けれど、ここが雄英高校だと気づいた瞬間、長男の胸にはある考えが浮かんだ。
もしかしたら、パパとママに会えるかもしれない。
まだ自分たちのことを知らない、若い二人に。
そして、願いは思いがけない形で叶った。
「ねえ、みんな。今日は楽しかったかしら?」
母親が、三人の顔を順番に覗き込む。
すると、待っていましたとばかりに双子が声を弾ませた。
「うん!たのしかった!」
「パパ、若かった!」
「……ふふっ」
母親は思わず笑みをこぼした。
「そうね。あなたたちのパパは、今よりずっと若かったでしょうね」
「でも、パパだった!」
片方の双子が、力いっぱい主張する。
「おれたちのパパ!」
「そうだよ!おれ、すぐわかったもん!」
もう片方も負けじと胸を張った。
その様子に、長男は小さく笑う。
「パパ、まだあんまり大人じゃなかったね」
「ふふ、そんなこと言ったらパパがかわいそうよ?」
母親が少しだけ眉を下げると、双子は顔を見合わせた。
「でも、ほんとだもん!」
「パパ、すぐ怒ってた!」
「……あらあら」
母親は口元に手を添え、楽しそうに笑った。
きっと、あの頃の彼ならそうだったのだろう。
短気で、口が悪くて、素直じゃなくて。
それでも、誰よりも真っすぐで、大切なものを守るためなら迷わず手を伸ばす人。
今の彼を知っているからこそ、子どもたちの話す若い頃の姿が、ありありと目に浮かぶ。