第16章 雄英文化祭編
「……おい、勝手に家族構成まで考えてんじゃねぇ」
「いや、だって気になるだろ!」
「気になんねぇよ!」
「爆豪お兄ちゃん、あの赤ちゃんに手を伸ばされてたよね!」
エリの言葉に、爆豪の動きがぴたりと止まった。
「……あ?」
「赤ちゃん、爆豪お兄ちゃんのこと見て、手を伸ばしてた!」
「そうそう!あれ、何だったんだろうな?」
上鳴が面白がるように身を乗り出す。
「初対面なのに、なんか懐かしい人に会ったみたいな顔してなかった?」
その言葉に、おもちは先ほどの光景を思い出した。
赤ん坊が爆豪へ伸ばした小さな手。
そして、長男の少年が爆豪を見つめていた、あの表情。
一瞬だけ、胸の奥がきゅっと締めつけられるような、不思議な感覚があった。
「……そうね」
彼女は静かに頷いた。
「私も、少し不思議に思ったわ。あの子たち、爆豪君を見たとき、なんだかとても安心したような顔をしていたでしょう?」
「……」
爆豪は答えなかった。
ただ、眉間に皺を寄せ、考え込むように視線を落とす。
「ま、偶然だろ!」
切島が明るく言った。
「世の中には自分にそっくりな人が三人いるって話もあるしな!それがたまたま子どもだっただけかもしれねぇ!」
「そんな都合よく三人もいるかよ」
爆豪は即座に返したものの、声にいつもの勢いはなかった。
「でも、また会えたらいいね!」
エリの無邪気な一言に、おもちはふわりと微笑んだ。
「そうね。今度は迷子にならずに、お母さんと一緒に文化祭を楽しめるといいわね」
「うん!」
エリは満足そうに頷いた。
そのまま五人は、賑やかな出店の並ぶ道を歩いていく。
上鳴と切島は次に食べるものを相談し、エリはおもちの手を引いて屋台を眺めていた。
爆豪は少し後ろを歩きながら、ふと隣にいるおもちへ視線を向ける。
彼女は楽しそうにエリの話を聞き、時折、柔らかな笑顔を見せていた。
その横顔を見ていると、先ほどの赤ん坊が彼女に抱かれていた姿が、なぜか頭から離れない。
あの赤ん坊の青い瞳。
自分へ伸ばされた小さな手。
そして、あの女性が子どもたちに向けた、優しい微笑み。
「……チッ」
爆豪は小さく舌打ちした。
理由は分からない。
ただ、あの家族のことを考えると、胸の奥が妙にざわつくのだった。