第16章 雄英文化祭編
女子トイレから出たおもちは、腕の中で満足そうに指を動かしている赤ん坊に目を落とし、微笑んだ。
「おむつも替えたし、これで気持ちよく過ごせるわね」
「うん!赤ちゃん、もう泣いてないね!」
隣を歩くエリも、嬉しそうに赤ん坊の顔を覗き込んでいる。
「ふふっ。エリちゃんのおかげで、すっかりご機嫌ね」
そんな会話を交わしながら廊下を曲がった、そのときだった。
「--だから、君たち、どこから来たの?」
「お父さんかお母さんは?」
聞き覚えのない男子生徒たちの声が聞こえた。
おもちは足を止める。
廊下の先には、雄英の制服を着た男子生徒が三人。その前に、爆豪によく似た五歳ほどの男の子と、三歳ほどの双子が立っていた。
先ほどまでの穏やかな表情は、もうない。
五歳の男の子は、双子を自分の後ろにかばうように立ち、警戒するように男子生徒たちを見上げていた。
「……知らないやつには、言わねえ」
小さな声だった。
けれど、その言葉には明確な拒絶があった。
「はあ?別に怪しいもんじゃねえって」
男子生徒の一人が、笑いながら屈み込む。
「ちょっと聞いてるだけだろ?」
「……っ」
双子の片方が、兄の服をぎゅっと握った。
もう一人も不安そうに周囲を見回している。
その様子を見た瞬間、おもちの目から笑みが消えた。
「……あの、この子たちに何の用ですか?」
静かな声が、廊下に響いた。
男子生徒たちが振り返る。
そこに立っていたのは、赤ん坊を抱き、エリの手を引いた一人の女性だった。
ただし、彼女の表情は、先ほどまで子どもたちに向けていたものとはまるで違う。
涼やかな青い瞳が、男子生徒たちを真っ直ぐに射抜いていた。
「え?ああ、いや……」
一人が、少し気まずそうに頭を掻いた。
「見慣れない子どもたちがいたから、声をかけただけだよ」
「そうですか」
おもちは短く答えた。