第16章 雄英文化祭編
女子トイレに入ると、幸いにもおむつ交換台が空いていた。
おもちは赤ん坊を慎重に寝かせ、リュックから必要なものを取り出す。
おむつに、おしりふき。念のための着替えまで、きちんと入っていた。
「まあ、しっかり準備してあるのね」
思わず感心したように呟く。
五歳ほどの男の子が、普段から妹のお世話を手伝っているのだろうか。
あの小さな体で、弟たちの面倒を見ながら、さらに赤ん坊まで抱えていた。
その姿を思い返すと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……頑張り屋さんなのね」
誰に聞かせるでもなく呟き、おもちは手際よくおむつを替え始めた。
赤ん坊は最初こそ不機嫌そうに声を上げていたものの、汚れたおむつを外してもらうと、少しずつ落ち着いていった。
小さな足をぱたぱたと動かし、青い瞳をきらきらさせながら、目の前のおもちを見つめている。
「はい、きれいになりましょうね」
優しく声をかけながら、おしりをきれいに拭き、新しいおむつを当てる。
赤ん坊は、まるでその声が心地よいとでもいうように、次第に泣き止んでいった。
最後におむつを整え、服を直してあげる。
「……よし、できた」
おもちが満足そうに微笑むと、赤ん坊も満足したように口元を緩めた。
先ほどまで泣いていたのが嘘のように、すっかりご機嫌だ。
「ふふっ。すっきりした?」
赤ん坊は答える代わりに、小さな手を伸ばした。
その指先が、おもちの頬にちょん、と触れる。
「まあ」
思いがけない仕草に、彼女は目を細めた。
「ありがとう。触ってくれたの?」
赤ん坊は、もう一度、小さな手を伸ばす。
まるで、もっと近くにいたいとでも言うように。
おもちはその手をそっと包み込んだ。
「……本当に可愛いわね」
普段はどれだけ人に囲まれても、簡単には心を乱さない彼女が、今はすっかり目尻を下げている。
その隣で、エリもまた、赤ん坊に夢中だった。