第16章 雄英文化祭編
「……ごめん。気づかなかった」
その声には、幼いながらも責任を感じている様子が滲んでいた。
「ううん。こんなに小さい子だもの。気づけないことだってあるわ」
おもちは優しく微笑んだ。
「ちょうど、すぐそこに女子トイレがあるでしょう?おむつを替えてこようか?」
そう提案すると、男の子はぴたりと動きを止めた。
赤ん坊を抱く腕に、きゅっと力が入る。
一瞬、迷うような表情が浮かんだ。
知らない人に妹を預けることへの不安。それでも、自分ではどうしてあげることもできないという戸惑い。
五歳の子どもが抱えるには、少し大きすぎる葛藤だった。
おもちは急かさず、ただ穏やかに彼の返事を待った。
やがて男の子は、小さく息を吸った。
「……お願いします」
そう呟き、肩に掛けていた小さなリュックを下ろす。
中からおむつを取り出そうとしたものの、赤ん坊を抱いたままではうまくいかない。彼は少し困った顔をしたあと、リュックごとおもちへ差し出した。
「これに、入ってます」
「ありがとう。ちゃんと準備していたのね」
彼女はリュックを受け取り、もう片方の腕で赤ん坊を抱き上げた。
小さな体を胸元に寄せ、首をしっかりと支える。
赤ん坊は一瞬だけ泣き声を止め、きょとんとした顔で彼女を見上げた。
「よしよし。おむつを替えたら、気持ちよくなるからね」
おもちが背中を優しく撫でると、赤ん坊は小さな唇をむにゅっと動かした。
その仕草があまりにも愛らしく、彼女の頬が自然と緩む。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」
そして、残された男の子たちへ振り返った。
「あなたたちも、トイレを済ませておいで。慌てなくて大丈夫よ」
「……うん」
兄は少しだけ名残惜しそうに赤ん坊を見つめたあと、素直に頷いた。
おもちは微笑み、エリと一緒に女子トイレへ向かった。