第16章 雄英文化祭編
文化祭に向けた練習に、A組の生徒たちが明け暮れていた頃。
雄英高校に、思いがけない来客があった。
「久しぶりだね、みんな!」
通形ミリオが、ひとりの小さな少女を連れてA組のもとへ顔を出したのだ。
「通形先輩!?」
「えっ、何でここに!?」
練習の手を止めた生徒たちが、次々と声を上げる。
そして、通形の隣に立つ少女の姿を見つけた瞬間、緑谷の表情がぱっと明るくなった。
「エリちゃん!」
嬉しそうに駆け寄る緑谷。
その声に、エリは少しだけ肩を揺らした。
「こんにちは、デクさん……」
小さな声で挨拶を返すものの、どこか緊張している様子だった。
以前よりも表情は柔らかくなった。それでも、初めての場所や大勢の人に囲まれることには、まだ慣れていないのだろう。
「来てくれたんだね!元気そうでよかった!」
「うん……」
緑谷が嬉しそうに話しかける一方で、エリは周囲をそっと見回していた。
初めて見る教室。見慣れない生徒たち。聞こえてくる楽しげな声。
そして、ロビーの一角では、耳郎たちが楽器を並べてバンド練習をしていた。
「じゃあ、次はサビから合わせるよ!」
耳郎の声に合わせ、上鳴がギターを構える。八百万がキーボードの準備を整え、常闇が静かに弦へ指を添えた。
ドラムの前に座る爆豪がスティックを回す。
その少し離れた場所では、おもちがギターを肩に掛け、耳郎と歌い出しのタイミングを確認していた。
楽しそうだった。
誰かに指示されているわけでも、任務のために周囲を観察しているわけでもない。
ただ、同じ目標に向かって、仲間たちと何かを作り上げている。
エリは、その光景をじっと見つめた。
そして。
ふと、ひとりの女性の姿に目が留まった。
長い髪。すらりとした立ち姿。柔らかな横顔。
見たことのない制服姿なのに。
知らないはずの人なのに。
どうしてだろう。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
エリは、緑谷のそばをそっと離れた。