第15章 死穢八齋會
「私が公安の人間だと分かれば、彼らは私を信じてくれたかもしれない。けれど、敵に正体を知られる危険もあった。私が用心棒として組織に入り込んでいた以上、彼らには敵だと思われている方が都合がよかったのよ」
「しかし……」
「壊理ちゃんを救うために、私が敵側にいると信じさせる必要があった。それだけのことよ」
あまりにも簡潔な説明だった。
彼女にとっては、それが任務上の判断だった。
緑谷にどう思われるか。
ミリオに何を言われるか。
そんなことを考えている余裕はなかった。
任務を成功させること。
壊理を生きて救い出すこと。
それが最優先だった。
「……君は、自分が何をしているのか分かっているのか」
「もちろん」
「本当に?」
オールマイトの声が低くなる。
「君は雄英高校の生徒として生活している。クラスメイトたちと一緒に授業を受け、寮で暮らし、ヒーローを目指している。私は、君が彼らの中で過ごす時間を大切にしているのだと思っていた」
「大切にしているわ」
彼女はすぐに答えた。
その返事に、オールマイトは一瞬だけ目を見開いた。
「雄英での生活も、クラスメイトたちも。私にとって、大切なものよ」
彼女は煙草を見つめた。
「でも、それと任務は別でしょう?」
「……別?」
「ええ。私は公安の人間でもある。任務があれば遂行する。それだけよ」
「君は、まだ高校生として生活しているんだぞ!」
「高校生ではないわ」
彼女の声が、初めて鋭さを帯びた。
「私は二十一歳の成人女性よ」
オールマイトが息を呑んだ。
「雄英にいるのは、任務のため。生徒として生活しているのも、その方が都合がいいから。あなたも、それは最初から知っていたでしょう?」
「……それは、そうだが」
「なら、今さら何を驚いているの?」
彼女は、静かに問い返した。
「私は今までと何も変わっていないわ。公安の任務を受けて、必要なことをしているだけ」
「変わっていない、だと?」
オールマイトの拳が震えた。
「君は、死穢八齋會という危険な組織に潜入していたんだ!どれほどの危険があったか、分かっているのか!」
「分かっているわ」
「分かっているなら、なぜ……!」
「だから、成功させたのでしょう?」
彼女の言葉に、オールマイトは口を閉じた。