第15章 死穢八齋會
放課後
夕暮れに染まり始めた雄英高校の屋上に、ひとりの女の姿があった。
立入禁止の看板を横目に、フェンス際の壁へ背中を預ける。制服のスカートを風に揺らしながら、彼女は細長い煙草を指に挟んでいた。
ゆっくりと吸い込み、吐き出す。
白い紫煙が、夕空へ溶けていった。
先ほど、校内放送で職員室への呼び出しがあった。
名前を呼ばれた瞬間、彼女はおおよその見当がついていた。
――死穢八齋會の件だろう。
公安から、オールマイトの耳に情報が入ったのだ。
今まで、彼には雄英での任務について、必要最低限のことしか伝えていなかった。雄英内部でヴィランの内通者を探ること。生徒たちの動向を観察すること。そして、必要があれば公安の指示に従うこと。
それだけで十分だと思っていた。
まさか、死穢八齋會への潜入まで知られるとは。
いや、いずれ知られる可能性はあった。
自分が何をしているのか、彼が知ればどう思うのか。
考えなかったわけではない。
ただ、考えたところで、任務を放棄するという選択肢はなかった。
「…………」
彼女は煙草を口元へ運んだ。
オールマイトは、自分を心配してくれる。
叔父として、家族として。
それは分かっている。
だからこそ、話しづらいこともあった。
彼に知られれば、きっと止めようとするだろう。
危険な任務から遠ざけようとするだろう。
けれど、自分はもう、守られるだけの子供ではない。
二十一歳の成人女性だ。
自分で選び、自分で決め、その結果に責任を負う。
それが、彼女の生き方だった。
カツン。
屋上へ続く扉の向こうから、靴音が聞こえた。
彼女は視線だけを向けた。
重い扉が開く。
夕日の差し込む入り口に、見慣れた巨体が立っていた。
「……やはり、ここにいたか」
予感が的中した。
「……オールマイト」
彼女は驚かなかった。
制服姿のまま、再び煙草を口元へ運ぶ。
まるで、ここに来ることを最初から分かっていたかのように。
オールマイトは、彼女の手元を見た。
細い指に挟まれた煙草。
立ち上る紫煙。
雄英の生徒として過ごしている彼女の姿しか知らない者が見れば、違和感を覚える光景だろう。
だが、彼は知っている。
彼女が、ここで見せている姿こそ、普段の制服姿とは違う、もうひとつの顔なのだと。