第15章 死穢八齋會
死穢八斎會への潜入を始めてから、おもちは着実に情報を集めていた。
昼は雄英高校の生徒としてクラスメイトたちと過ごし、夜は死穢八斎會の構成員として治崎の動向を探る。二つの顔を使い分ける生活にも、少しずつ慣れ始めていた。
しかし、壊理と過ごす時間が増えるにつれ、彼女の中で一つの疑念が確信へと変わっていった。
あの少女は、単に治崎から逃げ出したわけではない。
彼女は、何かをされている。
怯えた表情。物音に過剰に反応する身体。治崎の姿を見ただけで強張る肩。そして、時折見せる、自分が何か悪いことをしたのだと信じ込んでいるような眼差し。
それらを見過ごせるほど、彼女は冷徹ではなかった。
ある夜、壊理が眠りについたことを確認すると、おもちは人目につかない場所で端末を取り出した。暗号化された通信回線を開き、公安へ報告を送る。
そこに記されたのは、死穢八斎會の内部構造や治崎の行動記録だけではなかった。
壊理という少女の存在。そして、彼女の個性を利用した非人道的な薬物製造計画。
少女の個性は、対象の身体を巻き戻すもの。
治崎はその力を利用し、壊理の血肉から個性を消失させる薬を生成していた。さらに、その薬を裏社会へ流通させ、莫大な利益を得ようとしている。
つまり、壊理の身体そのものが、薬の原料として扱われているのだ。
報告書を作成する指先に、ほんのわずかな力がこもった。
彼女は、壊理が何をされたのか、そのすべてを把握しているわけではない。それでも、断片的な情報を繋ぎ合わせれば、導き出される結論は一つだった。
――この子は、今も道具として扱われている。
画面に並ぶ文字を見つめ、おもちは静かに息を吐いた。
ここで自分が動かなければ、壊理はこれからも傷つけられる。
そして、治崎の計画が実現すれば、被害は彼女一人では済まない。
彼女は最後の一文を入力した。
《死穢八斎會の壊滅、および壊理の身柄確保を最優先事項として要請する》
送信。
画面に表示された報告完了の文字を確認すると、彼女は端末をしまった。
これで、歯車は動き始める。
たとえ自分がその場にいられなくても、壊理を救い出すための道筋を作ることはできる。
それが、今の自分にできる最善だった。