第13章 ヒーロー仮免試験
彼女は責め立てることもなく、ただ静かに続ける。
「轟君が不合格だったことは、轟君自身が一番よく分かっているはず。反省するところがあるなら、次の試験までに改善すればいい。それだけの話だよ」
そして、ほんの少しだけ目を細めた。
「他人の失敗を笑うことが、自分の実力を証明するわけじゃないでしょう?」
その言葉に、物間の頬が引きつった。
「……はっ、君は随分と偉そうなことを言うじゃないか!」
「そうかしら?」
彼女は微笑んだ。
いつもの、誰に対しても分け隔てなく向ける、穏やかな笑顔。
ただし、瞳の奥には、明確な怒りが残っていた。
「私は、頑張っている人を笑うのが好きじゃないだけ」
その一言で、物間は完全に言葉を失った。
少し離れたところでは、芦戸が耳郎の袖をそっと引っ張っていた。
「……ねえ、耳郎ちゃん」
「……うん」
「おもちちゃん、怒ってる?」
「……怒ってるね、あれ」
耳郎は小声で答えながら、彼女の横顔を見つめた。
彼女が声を荒らげることは、ほとんどない。
誰かを言い負かそうとすることもない。
普段は一歩引いて、周囲の様子を見守っていることが多い彼女が、今は自ら前に出て、轟を庇っている。
その静かな迫力に、二人とも息を呑んでいた。
八百万もまた、驚いたように彼女を見つめている。
一方、轟は目の前に立つ彼女の背中を見ていた。
自分を庇うために、彼女が物間と向き合っている。
その事実が、少し意外だった。
「……お前」
轟が小さく声をかける。
彼女は振り返らず、そっと言った。
「轟君は謝らなくていいよ」
「……だが」
「悔しいなら、次に合格すればいい。轟君なら、きっとできる」
その言葉には、根拠のない慰めではない、彼女なりの確信があった。
轟はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……ああ。そうだな」
顔を上げた彼の瞳には、先ほどまでの後ろめたさとは違う光が戻っていた。
それを見届けてから、彼女は再び物間に向き直る。
「それじゃあ、私たちはもう行くね。朝のホームルームに遅れたくないから」
まるで、何事もなかったかのような口調だった。