第8章 夏休み
夏休み
期末試験を終えた雄英高校の生徒たちは、本来なら待ちに待った休暇を満喫するはずだった。
しかし、USJでのヴィラン襲撃事件を受け、雄英高校は生徒たちの安全を最優先に考え、夏休み期間中の遠方への旅行や不要不急の外出を禁止する方針を打ち出した。
「ええーっ! せっかくの夏休みなのに!?」
上鳴の嘆きに、教室のあちこちから不満の声が上がる。
「仕方ないだろ。あれだけの事件があったんだ」
飯田が眼鏡を押し上げながら、真面目な顔で答えた。
「安全を考えれば当然の措置だ。僕たちは雄英の生徒なんだからな」
「わかってるけどさぁ……」
芦戸が机に突っ伏す。
「みんなで遊びに行きたかったのに!」
「まあ、家でゲームでもすりゃいいじゃねぇか」
瀬呂が肩をすくめると、上鳴が勢いよく顔を上げた。
「それだ! 誰かんちに集まってゲームしようぜ!」
「不要不急の外出は禁止だと言われただろう!」
飯田の声が教室に響き、また騒ぎが大きくなる。
その様子を眺めながら、彼女は静かに教科書を鞄へしまっていた。
夏休みの予定に、特別なものはない。
もともと公安の仕事を抱えていた彼女にとって、休暇という言葉はどこか遠いものだった。
けれど、今年は少し違う。
雄英で過ごす日々の中で、クラスメイトと一緒に何かをすることが、以前よりも楽しみになっていた。
「……残念ね」
彼女が小さく呟くと、隣にいた爆豪がちらりと目を向けた。
「何がだ」
「みんな、楽しみにしていたでしょう? 夏休み」
「別に。家で鍛えりゃいいだけだ」
「爆豪くんらしいわね」
「どういう意味だ、てめぇ」
「褒めているのよ」
「絶対違ぇだろ!」
いつものやり取りに、近くにいた切島が笑った。
けれど彼女の胸の内には、別の不安があった。
夏休みに入っても、個性は戻っていない。
それどころか、回復の兆しすら感じられなかった。
誰にも悟られないように振る舞ってはいるが、いつまでもこの状態が続くわけにはいかない。
彼女はその日のうちに、以前から予約していた病院へ向かうことにした。