第5章 束の間の休息
不思議な夢を見た。
足元に、静かな水面が広がる。波ひとつない水は、どこまでも透き通っている。裸足で立つ彼女の足元から、淡い波紋がゆっくりと広がっていった。
空を見上げても、太陽は見当たらない。 それなのに、辺りは不思議なほど明るかった。
ふと、背後に気配を感じて、振り返る。
そこには、巨大な赤い鳥居がそびえ立っていた。
水面の上に浮かぶように佇む鳥居は、まるでこの世とあの世を隔てる境界のようだった。朱色の柱は鮮やかで、長い年月を経た神聖な雰囲気をまとっている。
ここは、どこなのだろう。
そう思った瞬間だった。
「――おもち」
誰かが、彼女の名前を呼んだ。
低く、深く、どこか懐かしさを感じさせる声。
聞き覚えはない。 けれど、初めて聞いた気がしなかった。
彼女はゆっくりと振り返った先に、一頭の龍が佇んでいた。
黄金に輝く、巨大な龍。
幾重にも重なった鱗は、朝日を受けた金のように煌めき、長い身体は水面の向こうまで続いている。頭部から伸びる角は神々しく、鋭い爪を持つ四肢には、途方もない力が宿っているようだった。
その姿は、恐ろしいというよりも――あまりにも神聖だった。
彼女は思わず息を呑んだ。
「……あなた、だれなの?」
問いかける声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
黄金の龍は、すぐには答えなかった。
ただ、彼女を見つめていた。
金色の瞳には、怒りも敵意もない。
まるで、長い長い年月をかけて、ようやく探し人を見つけたかのような眼差しだった。
やがて龍は、ゆっくりと目を閉じた。
巨大な頭を静かに垂れ、彼女に向かって深々とお辞儀をした。
その仕草は、まるで主君に対する忠誠の誓いのようだった。
「――迎えに来た」
水面が、かすかに揺れた。
彼女は目を見開く。
「迎えに……?」
どこへ、誰が、何のために?
問いかけようとした、その瞬間、龍が、再び顔を上げた。