第4章 雄英体育祭編
「やっぱり」
短い返事。
ホークスは注射痕を見つめたまま、深く息を吐いた。
「また無茶したね」
先ほどまでの軽薄な調子は、もうなかった。
責めるような声だった。
それでも、彼女を傷つけるような強さはない。
ただ、長年彼女を見てきた人間だからこその、隠しきれない心配が滲んでいた。
「……仕方なかったの」
「うん。君はいつもそう言う」
ホークスは顔を上げた。
「仕方なかった。必要だった。自分で判断したことだから問題ない。……そうやって、何でも一人で片づけようとする」
彼女は何も答えなかった。
「俺、君が強いのは知ってるよ。誰よりも冷静で、頭が回って、どんな状況でも最善を選ぼうとする」
ホークスは、彼女の太ももから手を離した。
そして、ソファの背もたれに片手をつき、静かに彼女を見下ろした。
「でもさ」
金色の瞳が、まっすぐ彼女を捉える。
「自分の身体まで、使い捨ての道具みたいに扱うのはやめなよ。」
彼女の表情が、わずかに揺れた。
いつもなら、適当な冗談で受け流せたはずだった。
けれど、今日ばかりは言葉が出てこない。
墓前で両親に語りかけたこと。
オールマイトに初めて打ち明けた秘密。
そして今、ホークスに見抜かれた、自分の無茶。
少しずつ、隠し続けてきたものが表に出始めている。
「……ホークス」
「ん?」
「あなたまで、そんなこと言うのね」
彼女は困ったように笑った。
「叔父さんにも、同じことを言われたわ」
「へえ。オールマイトにも?」
ホークスは目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「そりゃ、参ったね。俺の出番、なくなっちゃうじゃん」
「……そうね」
「でも、まあ」
彼はようやく彼女から離れ、ソファの隣に腰を下ろした。
「何回でも言うよ。君がちゃんと聞くまで」
彼女は返事をしなかった。
ただ、膝の上に置いた手を、そっと握りしめる。
ホークスはそれ以上、問い詰めなかった。
しばらくして、彼女は乱れたワンピースの裾を直し、ゆっくりと身体を起こした。
テーブルの上では、用意したお茶がすっかり冷めかけていた。
「……淹れ直すわ」
「いいよ。冷めてても飲めるし」
いつもの軽い笑み。
いつもの調子。
けれど、ホークスが彼女を見つめる眼差しには、まだ心配が残っていた。
そして彼女もまた、その視線から逃げることはしなかった。
