第10章 狂い雨
コンコン、と静まり返った私の部屋に、どこか鋭く、規則正しいノックの音が響いた。
『はい、どなたですか……?』
私がベッドの上から声をかけると、ガチャリと静かにドアが開いた。
入ってきたのは、書類の束を片手に持った皐月さんだった。
彼女は私を一瞥すると、昨日から私と高専のみんなが無断で出かけていたサボりのことには気付いていないのか、一切触れず、ただ、淡々と機械のように言葉を紡ぎ出した。
「……今後の詳細について、先ほど四季庁の上の連中から正式な決定事項が下りました。人手不足、および裏切り者の職員による内部の混乱が未だに収まっていないため、今年のあなたの顕現は『風伝い(遠隔での顕現)』になります。」
「それに伴い、世間への秘匿をさらに確実なものにするため、今年の梅雨の顕現時期は、例年よりも大幅に遅らせる予定です。用が済むまで、あなたはこの部屋で大人しく過ごしていなさい」
「風伝い」による、大幅な時期の遅延。
その言葉が耳に飛び込んできた瞬間、心が不安定になったからか、私の胸の奥で、じわじわと形を成し始めていた「ある異変」が、重苦しく主張を始めた。
呼吸が少しだけ浅くなり、身体がだるくなって、着物の下で自分の指先が微かに冷たく凍りついていくような感覚が襲う。
だめ……今でも、少し体調が悪くてしんどいのに。これ以上時期をずらしたら……
代行者としての私の身体は、世間の気象やカレンダーとは関係なく、季節の巡りに合わせて強制的に神の気が満ちてしまう宿命にある。もう限界が近づいていた。
私は体調の悪さを抑え込みながら、いつもなら怖くて目を合わせることすらできない皐月さんを、真っ直ぐに見つめて勇気を出して声を絞り出した。
『あの……っ、皐月さん!』
「何ですか。何度も言いますが、あなたの我儘を聞き入れている余裕は——」
『ですが、もう……、梅雨の季節です……っ。顕現を…顕現をしないと……これ以上時期を遅らせてしまっては、私……っ』
私の必死な訴えに、皐月さんは言葉を途中で止めると、少しだけ驚いたように目を見開いた。