第3章 怪雨
窓の外を、ぼんやりと眺めている。
今日は、いい天気だな……
青空を見ながら私はそう思った。
青空は好き。みんなが笑顔だから。
—–雨は嫌い。みんなが困るから。
今日はどこで雨が降っているんだろう。
そこにいる民は困っていないだろうか。
そんなことを思っていると、声をかけられた。
「五月雨(さみだれ)様、お時間です。……移動の準備を」
後ろから、事務的な声が私を呼ぶ。旅路を共にしてきた仮の護衛官、皐月(さつき)さんだった。
『……はい、今行きます』
振り返り、笑みを返す。
けれど、彼女は私の返事を聞くとすぐに背を向け、歩き出してしまった。私は置いていかれないように、少し早足でその後ろ姿を追いかける。
——あぁ、いつもながら、この人は一度だって私の目を見てくれることはないんだな。
彼女は私を守る存在。けれど、その瞳に温かさはない。
四季の花を散らし、夏の太陽を遮る、晴れ間を奪う嫌われ者の雨の神様。
誰からも本当には望まれない私を、義務だけれど、守ってくれている。
そこには何の感情も、温もりも存在しない。
そんな、胸の奥に澱(おり)のように溜まった寂しさをひた隠しにして、私は促されるままに迎えの車へと乗り込んだ。
目的地は、呪術高専という場所。“呪い”を扱う学校らしい。
そこに行けば、私の悩みは改善するのだろうか。
動き出した車の窓に額を押しあてて、私はまた、ぼうっと流れていく外の景色を眺めた。
——幼い頃から、私はあることに悩まされていた。
梅雨の顕現をしたり、私の強い感情の揺れによって、大雨が降ったりすると、きまって黒いモヤが現れ、私を襲うのだ。
息が詰まるほど、とても苦しいけれど、雨が止むと、次第に楽になる。
幼い頃は、誰かがその苦しみを楽にしてくれていた記憶がある。
けれど、私を大切にしてくれていた前の護衛官が亡くなってしまい、皐月さんが代わりを務めるようになってからは、私の訴えもだんだんと無視されるようになってしまった。
高専に行けば、あの黒いモヤの正体がわかるのかな……
心の中でぐるぐると、暗く切ない物思いに耽っているうちに、車は静かに停車した——。