第8章 谷雨
今日は楽しそうだったね、雫
あんな奴の冷たい言葉なんて全部忘れて、僕の前だけで、ずっとそうやって笑っててよ。
僕はベッドに腰掛けたまま、そっと大きな右手を伸ばし、彼女の額に優しく触れた。
指先から伝わってくる、女の子らしい柔らかくて心地よい体温。
愛おしくて、どうしても離れがたくて、僕は彼女の綺麗な髪を、頭を、何度も、何度も、指先で愛おしそうにそっと撫で続けた。
「……ずるいよね、君は」
ぽつりと、静かな部屋に僕の低い独り言が小さく溶けていく。
「……ずるいよね、君は」
ぽつりと、静かな部屋に僕の低い独り言が小さく溶けていく。
誰も触れることすら許されない、僕の「無限」。触れられないということは、僕から奪うこともできないということ。最強を縛る、完璧な孤独の檻。最強という名の、息の詰まるような孤独。
なのに、この小さな女の子は、僕の絶対領域をすり抜けて、いとも簡単に僕の心の一番深いところへと入り込んでしまう。
だからこそ、胸の奥でドス黒く渦巻く独占欲が、僕自身でも止められないくらいに膨れ上がっていく。
「おやすみ、雫。……明日からも、僕が守ってあげるからね」
もう一度、髪の隙間に指を滑らせて愛おしそうに頭をぽんぽんと撫でる。
そこにあるのは、教師としての義務感などではなく、一人の男としての、酷く歪で、深く濃密な独占欲と愛そのものだった。
僕の手のぬくもりを、眠りの中で本能的に感じ取ったのだろう。眠っている雫は、幸せなそうな表情を浮かべていた。