第7章 夜雨
「……今度、どこかに連れ出してあげよう」
ぽつりと呟いた言葉が、静かな部屋に優しく溶けていった。
でも……あんまり騒がしいところはやめとこうかな。
彼女の体調を気にかけろって、四季庁や皐月サン、それに何故か、上の連中にも散々言われたし。それに、変に目立って彼女の立場が危うくなったりしたら困る。
「……緑の多い、静かな公園とかにするべきか」
彼女の身体に負担がかからなくて、あの子が心からホッとできるような行き先を、あれこれと考える。
「あ、いいこと思いついた」
そこで、僕の頭にすっごく良いアイデアが閃いた。
「 “今度” なんて言わず、明日でいっか。……よし、明日の授業は潰しちゃおう」
我ながら名案すぎて、思わずくすりと笑ってしまう。
聞いた話だと、明日、皐月サンは朝早くから出掛けないといけないらしい。
——決まりだ。皐月サンが出たその隙を狙って、1時間目の授業から丸ごと潰しちゃおう。
真希たちには適当に理由をつけて、あの冷徹な護衛官の目を盗んで、彼女を連れ出してあげればいいんだ。
そんなことを考えていたら、なんだか胸の奥がじんわりと温かくなって、早く明日にならないかななんて、子供みたいにワクワクしている自分がいた。
「楽しみにしててね、雫」
窓の外で静かに降り始めた、彼女がくれた、少し寂しい夜の雨音を聞きながら——僕は明日、“雨の神様” をどうやって喜ばせようかと、それだけを楽しみに考えてゆっくりと目を閉じた。