第6章 茂み雨
それから、午後の訓練の時間になった。
もちろん、私はグラウンドの隅で見学。
これからの時期、梅雨の顕現を控えている私は、予定通りに顕現を進めるためにも、体調に気をつけ、常に万全の状態を保たなければならない。怪我なんて、もってのほかだった。
流石の五条先生も、「見ててね」と言ってくれたので少し安心した。
もし「一緒に訓練しよう!」なんて言われていたら、どう断ればいいか分からず、下手したら断りきれず一緒に訓練していたかもしれない。
「みんな、よく頑張ってるねー」
『そうですね。本当にすごいです……』
五条先生は、隣で呑気にそう言いながら走るみんなを眺めている。私はそれに小さく相槌を打った。
グラウンドでは、みんなが体力作りのために結構な速さで走っている。
この広いグラウンドを15周も走るらしい……。
私なら、きっと2周で限界を迎えてしまうだろう。
みんなが汗を流して一生懸命頑張っている中、一人だけ座って見ているのは少し申し訳なくなる。けれど、今の私はできる限り静かに過ごさなければいけない……。
私は、走るみんなの姿をじっと見つめながら、ふと、思考を巡らせた。
——五条先生って、私のことをどこまで知っているんだろう。
私を預かる訳だから、ある程度は私の事情を把握していると思うし、私が『梅雨の代行者』であることも、きっと知っている。体調のことも言われたはずだ。
——だからこそ、事前に「見ててね」と言ってくれたのだろう。体調のことに関しては特に、皐月さんが何度も、裏でしつこく釘を刺しているはず。
もしも私が体調を崩して、顕現が出来なかったりしたら皐月さんが責められるかもしれないからだ。
彼女のことだ。自分が不利になる原因や、任務の邪魔になる要素は、事前にとことん潰すはず。
その皐月さんは、今はここにはいない。なんでも、街に出かけているそうだ。
いつでも、どこでも、絶対に私のそばを離れようとしない彼女が、今ここにいない。それは、どこか不思議で、奇妙な感覚だった。
けれどそれと同時に、私は心の底からホッとしている自分にも気づいていた。
彼女はいつも、守護という名目で私をずっと監視しているから。
——皐月さんが、今は、いない。
ただそれだけのことなのに、私は今、久しぶりにとても心穏やかな時間を過ごせていた。