第25章 眠るのは脹相の部屋で
彼女と一緒に暮らしているのだから、彼女の香りには慣れているはずだった。
抱きしめた時にも感じる。
髪を撫でた時にも感じる。
キスをした時にも。
それなのに、
――部屋で。
――彼女がいつも使っている布団の中で。
それを感じると、まるで違う。
「……」
脹相は天井を見る。
頭の中が妙に冴えている。
隣には好きな相手がいる。
しかも、自分を完全に信用して無防備に眠っている。
それだけで胸がいっぱいになる。
同時に
「……抱きしめたい」
そんな考えが浮かぶ。
一度浮かんでしまえば、消えない。
今、腕を伸ばせば触れられる。
髪にも。頬にも。手にも。
「……」
脹相は自分の手を握り込む。
――駄目だ。
眠れなくなる。
そう思って目を閉じる。
しかし
「……ん……」
隣から小さな寝言。
脹相はまた目を開けてしまう。
「……」
彼女が少しだけ身じろぎする。
その拍子に、布団がこちらへ寄った。
香りが濃くなる。
「……っ」
脹相は顔を覆った。
「……頼むから、寝かせてくれ……」
もちろん、彼女にそんなつもりはない。
ただ眠っているだけだ。
それなのに。
「……好きだ」
ぽつりと漏れる。
「……好きすぎて、眠れない」
自分でも呆れる。
恋人なのだから、隣で眠るくらい普通のことだ。
触れ合うことだって、もう珍しくない。
それでも。
彼女の部屋だけは駄目だった。
彼女の「生活の匂い」に包まれてしまうと、恋人としての感情が必要以上に強くなる。
もっと近くにいたい。
抱きしめたい。
自分だけのものだと思いたい。
そんな欲が次々と湧いてきてしまう。
「……」
だから朝まで、ほとんど眠れなかった。