第25章 眠るのは脹相の部屋で
「ねえ、脹相」
「なんだ?」
夜。私は自分の部屋の前で首を傾げた。
「今日、こっちで寝ないの?」
「……いや」
脹相は少し間を置いて答える。
「今日は俺の部屋で寝よう」
「なんで?」
「お前の部屋は、勉強するための場所だろう」
「そうだけど……」
「机も、ベッドも。お前が集中するための空間として残しておいた方がいい」
真面目な顔で言う。
「そっか」
私は素直に頷いた。
「じゃあ、脹相の部屋行く」
「ああ」
――それは、半分は本当だった。
が勉強に集中できる場所は、ちゃんと残しておきたい。
けれどもう半分は脹相自身のためだった。
以前、一度だけ。
の部屋で二人で眠ったことがある。
「おやすみ、脹相」
「……ああ。おやすみ」
彼女が眠りについた後、脹相も目を閉じた。
だが、
「……」
眠れない。
目を閉じた瞬間から、の気配が濃すぎた。
枕から、彼女の香りがする。
シーツにも、掛け布団にも。
そして隣からは、規則正しい寝息。
「……」
脹相はそっと目を開け、暗闇の中で、の寝顔を見る。
いつもより無防備に見える。
頬の力が抜けていて、唇も少しだけ開いていて、
髪が枕に広がっている。
「……」
――可愛い。
そう思った瞬間、自分で困った。
眠るために目を閉じたはずなのに
彼女を意識することばかり増えていく。
「……」
少しだけ寝返りを打つ。
すると、また香りがする。
「……っ」
脹相は反射的に布団を少し鼻から離した。
だが、意味がない。
どこにいてもの気配がある。
「……これは……」
眠れない。
完全に眠れない。