第21章 勉強と昔話
まだ幼かった頃。
「私、もっと料理できるようにならなきゃ」
「なんで?」
「いつか、お嫁に行くかもしれないから」
そう言って、必死に料理を覚えていた。
礼儀作法も、茶道も華道も。着付けも、裁縫も。
語学も全部、将来どこかへ嫁いだときに困らないように。
そして嫁いだ先で、五条家からもらったものを無駄にしないように。
恵はその頃のあなたを知っていた。
だからこそ、今でも覚えている。
「……お前、本気でそう思ってたよな」
「うん」
「五条家のために、どこかに嫁ぐって」
「……そうだったね」
私は少し照れたように笑う。
「別に嫌だったわけじゃないよ」
「でも、自分のためじゃなかった」
恵の言葉に、私は黙る。
「五条家に恩返しするため」
「……うん」
「自分がどうしたいかじゃなくて」
「……」
「どうしたら恩を返せるか、だった」
私は何も言えなくなる。
そのとき、隣にいた脹相が静かに口を開いた。
「……お前は」
全員の視線が脹相へ向く。
「自分の人生まで、誰かへの恩返しとして考えていたのか」
私は少し考えてから、頷いた。
「……たぶん?あんまり深くは考えてなかったんだよ!そうした方がいいよなー?みたいな!」
脹相は黙る。
その表情は、いつもより少しだけ険しかった。
けれど、責めるようなものではない。
ただ、知らなかった過去を知って。
あなたがどれほど長い間、自分自身よりも周囲のことを優先してきたのか。
それを初めて理解したような顔だった。
「だから」
私は少し笑う。
「花嫁修行も、別に結婚したかったからっていうより」
「……」
「いつか私がどこかに嫁ぐことになったとき、五条家に恥をかかせないように」
「……」
「それくらいはできる人になっておきたかったんだと思う」
恵は小さく息を吐く。
「やっぱりな」
「何が?」
「お前らしいと思って」
「……そう?」
「ああ」
恵は少しだけ笑う。
「でも、今は違うだろ」
「え?」
恵の視線が、あなたの隣へ向く。
そこには脹相がいる。