第18章 心音
「お前に抱きしめられるのも、悪くない」
「悪くない?」
「……好きだ」
「え?」
「このままが、好きだ」
胸が大きく跳ねる。
その音が、また脹相に伝わったらしい。
「……また速くなった」
「脹相のせいだよ」
「そうか」
「そうだよ」
「なら……もう少し、このままでいる」
「うん」
脹相はそう言って、完全に身体を預けてきた。
私の胸元に頭を収めたまま、目を閉じる。
その耳はまだ赤い。
「……脹相」
「ん?」
「顔、赤いよ」
「お前もだ」
「見えないくせに」
「分かる」
「どうして?」
「声で」
そう言われて、また胸が高鳴る。
「……もう、脹相のせいで全然落ち着かない」
「俺も落ち着いてはいない」
「じゃあ、どうする?」
「どうもしない」
脹相は私の服を掴んだまま、さらに少しだけ近づいた。
「今は、このままでいい」
「……うん」
静かな部屋。
私の腕の中にいる脹相。
胸元に触れる彼の髪と、そこから伝わるわずかな重み。
そして、私の心臓の音を聞いている脹相。
いつもとは逆の距離に、二人ともどうしていいのか分からないまま、それでも離れられなかった。
「もう少し、お前の心臓の音を聞いていたい」
その言葉に、また心臓が大きく跳ねる。
脹相はそれを聞いて、小さく笑った。
「……やはり、俺のせいだな」
「そうだよ」
脹相は顔を上げないまま、私の背中に腕を回した。
「……もう少し、抱きしめていてくれ」
「もちろん」
そう言って、脹相は私の胸元に顔を預け直す。
私はその背中を抱きしめたまま、ゆっくりと髪を撫でた。
抱きしめる側は、思っていたよりもずっと近くて、ずっと落ち着かなくて。
それでも、腕の中にいる脹相を離したくないと思った。