第18章 心音
「……脹相」
「ん?」
「このままでいてもいい?」
「……お前が望むなら」
「脹相は?」
少しの沈黙。
それから、胸元に顔を伏せたまま、低い声が返ってくる。
「……俺も、もう少しこのままがいい」
その言葉に、胸が大きく跳ねた。
「……今、心臓速くなったか?」
「……聞こえたの?」
「ああ」
「……そっか」
脹相はさらに顔を伏せる。
「聞かないで」
「無理だ。こんなに近いんだから」
「それは……そっか?」
「……ああ、…俺のせいで速くなっているなら、嬉しい」
思わず息を止める。
「脹相……」
「何だ?」
「そういうこと、急に言わないで」
「なぜ?」
「もっとドキドキするから」
正直に答えると、脹相はしばらく黙った。
そして、胸元から小さな声が聞こえる。
「……俺もだ」
「え?」
「お前に抱きしめられていると、落ち着くはずなのに……」
脹相の指が、服を掴む力を少し強める。
「お前の心臓の音が近すぎて、意識してしまう」
「……脹相も、ドキドキしてるの?」
「している」
あまりにも真面目に言うので、胸がさらに高鳴った。
「……顔、見せてよ」
「今は無理だ」
「まだ?」
「ああ」
「そんなに恥ずかしい?」
「……お前の胸元に顔を埋めたまま、見上げるのは……」
脹相はそこで言葉を止めた。
「……何?」
「余計に恥ずかしくなる」
その言葉に、思わず抱きしめる腕へ力を込める。
「……もう少し強くしてもいい?」
「……ああ」
許可をもらって、さらにぎゅっと抱きしめる。
脹相の身体が、私の腕の中にすっぽり収まる。
抱きしめる側は、相手の体温も重みも、全部腕の中で感じるのだと初めて知った。
いつもは私が脹相に抱きしめてもらっている。
守られるのも、安心するのも、いつも私のほうだった。
けれど今は逆だった。
脹相が私の胸元に顔を寄せ、私の心音を聞いている。
そのことが恥ずかしくて、嬉しくて。
「……落ち着く?」
「……ああ」
「本当に?」
「本当だ」
脹相は少しだけ顔を動かした。
けれど、やはり離れようとはしない。