第14章 膝にかけた上着
しばらくして――
ガラッ。
教室の扉が開く。
「……」
入ってきた脹相が、真っ先に私を見つける。
三つ並んだ椅子の上で横になって眠っている私。
その近くにいる恵。
そして、私の足元に掛けられている恵の上着。
「……伏黒」
「脹相か」
恵が顔を上げる。
脹相は私へ視線を戻した。
「なぜ、お前がここにいる?」
「こいつが寝てるから」
「……そうか」
「任務終わってからずっと寝てる」
恵は淡々と答える。
「起こそうとはしたけど、起きなかったから」
脹相の表情が少し曇る。
「……俺が連れて帰る」
「ああ」
脹相が私のそばへ歩いてくる。
そして、足元に掛かっている上着へ手を伸ばした。
「これは返す」
上着を持ち上げようとした、その瞬間。
隠れていた私の素足が露わになった。
「……!」
脹相の手が止まる。
一瞬、視線を逸らした。
そして――
すっ。
何事もなかったように、上着を元の位置へ戻す。
恵がそれを見て、脹相の意図を察する。
「……ああ」
「何だ?」
「上着なら明日でいい」
「……?」
恵は私のほうを見る。
「寝てる間、足が出てたから掛けただけだ」
「……そういうことだったのか」
「窓から風も入ってたし」
それだけ言って、恵は鞄を持ち上げる。
「別に大したことじゃない」
脹相は少し黙ってから、静かに頷いた。
「……ありがとう」
「気にすんな」
恵はそれ以上説明しない。
けれど、帰る前に私を一度だけ見る。
「かなり疲れてるみたいだから、起きるまでは寝かせといてやって欲しい」
「ああ」
「じゃあ、俺は帰る」
「……待て」
脹相が呼び止める。
「なぜ、まだ残っていた?」
恵は少し考えてから答えた。
「目を離して、起きたときに何かあったら面倒だろ」
「……」
「幼馴染だし、そのくらいはする」
淡々とした言い方だった。
「それに、お前が迎えに来るだろうと思ってたから」
「俺が?」
「ああ」
恵は特に気にした様子もなく言う。
「最近ずっと一緒にいるし。来たなら、もう大丈夫だろ」
脹相は一瞬だけ黙る。
そして、少し柔らかい声で答えた。
「……そうか」
恵が教室を出ていく。
扉が閉まり、静かな教室に、脹相と私だけが残った。
脹相は眠っている私を見下ろす。