第12章 おいで
「……なあ」
「ん?」
「なぜ、お前はそんなに俺を抱きしめるんだ?」
「…………」
彼女が少しだけ考える。
そして何でもないことのように笑った。
「私がしたいからだね!」
脹相が止まる。
「…………」
「どうしたの?」
「……いや」
「?」
「もう一度言ってくれ」
「え?」
「……その言葉を」
彼女は不思議そうにしながら。
「私がしたいから?」
「…………」
胸の奥が。
きゅっとした。
「…………」
脹相は何も言えなくなる。
俺が寂しそうだから。
俺が頼んだから。
俺を慰めるため。
そういう理由ではない。
ただ彼女自身が俺を抱きしめたいと思っている。
それだけ。
「…………」
「脹相?」
「……嬉しい」
「え?」
「お前が、俺を抱きしめたいと思ってくれていることが」
「…………」
彼女が少し照れたように笑う。
「だって、好きだから」
「…………」
まただ。
胸が締めつけられる。
「……そうか」
「うん」
「…………」
脹相は彼女を抱きしめる腕に、少しだけ力を込めた。
「じゃあ」
「ん?」
「これからも好きなだけすればいい」
「ふふ」
「俺も好きだ」
「何が?」
「……こうしていることが」
彼女が嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もう少しこうしてようか」
「ああ」
「私がしたいから」
「…………」
その一言に。
また胸が鳴る。
俺は彼女の肩に顔を寄せながら。
誰にも見られないように、ほんの少しだけ口元を緩めた。
――「私がしたいから」。
その言葉は。
思っていた以上に。
俺の心に響いた。