第8章 したいと思ったから
「……脹相?」
「……少し、いいか」
「うん?」
彼女の前で立ち止まる。
近くて心臓の音は、むしろ大きく感じた。
俺は一度だけ息を整える。
それから、の頬へ手を伸ばした。
「……昨日」
「うん?」
「……言ってくれただろう」
彼女が首を傾げる。
「したいときに、していいと」
「……うん」
「……だから」
脹相の指先が、頬をそっと撫でる。
「今、したい」
言ってから、自分で少し照れた。
けれど、もう目は逸らさなかった。
「……キスしてもいいか?」
彼女の頬が、ほんのり赤くなる。
そして、小さく頷いた。
「……うん」
その答えを聞いて。
脹相は安心したように、ほんの少しだけ笑った。
それから、ゆっくり顔を近づける。
昨日よりも迷いがない。
それでも、急がない。
彼女の様子を確かめるように、そっと距離を縮めて――
ちゅ。
優しく唇を重ねる。
ほんの短いキス。
けれど唇が離れたあと、脹相はすぐには離れなかった。
頬に手を添えたまま、彼女を見つめる。
「…………」
「…………」
二人とも、少し照れている。
「……おはよう」
脹相が改めて言った。
「ふふ……おはよう」
彼女が笑う。
その笑顔を見て、脹相も少しだけ笑った。
けれど数秒後。
「…………」
脹相の視線が、彼女の唇へ落ちる。
自分でも気づいてしまう。
(……もう一度、したい)
昨日なら、ここで驚いていた。
「またしたい」と思う自分に。
でも今はそれほど不思議ではなかった。
脹相は小さく息を吐く。
「……やはり」
「ん?」
「……昨日から、思っていたより多い」
「何が?」
「……キスしたいと思う回数が」
「…………」
彼女の顔が一気に赤くなる。
「……そんなこと、言うの?」
「すまない」
そう言いながらも、脹相は少し嬉しそうだった。
「だが……嘘はつきたくない」
そして今度は少しだけ照れながら、彼女の手を取る。
「……また、してもいいか?」
彼女が笑う。
「うん」
脹相はその返事を聞いて、今度はさっきより少しだけ自然に顔を近づけた。
ちゅ。
二度目のキス。
それが終わると、脹相は満足そうに目を細める。