第7章 キスはいつしていいんだ?
「…………」
脹相は自分の唇に指を当てた。
「……多すぎる」
思わず、もう一度呟く。
自分はもっと落ち着いている人間だと思っていた。
彼女のことが大切だからこそ、慎重にしなければと思っていた。
なのに。
「……こんなに、したいものなのか」
初めて知った。
キスそのものがしたいというより、彼女と近づきたい。
触れたい。が好きだと伝えたい。
そして、彼女からも同じ気持ちを返してほしい。
そういう気持ちが全部、「キスしたい」という形になっているような気がした。
「…………」
脹相は枕を抱き寄せる。
「……困ったな」
困ったと言いながら。
口元は少し緩んでいた。
そのとき。
廊下から、かすかな物音がした。
脹相が顔を上げる。
「……?」
隣の部屋。
彼女もまだ起きているらしい。
それだけで、また胸が跳ねる。
(……今、顔を見たら)
――したくなる。
そう思った瞬間。
脹相は自分で自分に呆れた。
「……駄目だ」
布団へ潜り込む。
「今日はもう寝よう」
目を閉じる。
けれど隣の部屋に彼女がいると思うだけで、なかなか眠れない。
そして最後に、今日の彼女の言葉を思い出す。
『脹相も、キスしたいと思ってくれてるの?』
「……ああ」
誰もいない部屋で、脹相は小さく答える。
「……思っている」
それどころか。
思っていた以上に。
ずっと。
「…………」
しばらくして、布団の中から小さな声が漏れる。
「……明日から、どうすればいいんだ」
その答えは、まだ分からなかった。
ただ一つだけ分かったことがある。
――自分は、彼女が思っている以上に、彼女とのキスを楽しみにしているらしい。
そう自覚した脹相は。
翌朝、彼女と顔を合わせることを想像してしまい、また一人で顔を赤くするのだった。