第74章 脹相の不安
「ねえ、脹相」
高専の職員室で、五条悟が頬杖をつきながら声をかけた。
「そういえば、あの子とそういう関係にはなったの?」
「…………」
脹相の手が止まった。
「……五条。お前は、もう少し聞き方というものを考えろ」
「えー? だって気になるじゃん、うちの子、結構可愛いと思うけど?」
「……そういう話ではない」
脹相は気まずそうに顔を背けた。
彼女と付き合い、同じ家で暮らすようになってから、幸せな時間は増えた。
大切で、愛おしい。
だからこそ、簡単には踏み込めなかった。
「……俺は、人間ではない」
脹相はぽつりと呟いた。
「呪いとも言い切れない。人間と同じように考えていい存在なのかも、分からないんだ」
五条は黙って彼を見た。
「中途半端なことをして、彼女を傷つけるのが怖い」
「怖いって、どういうこと?」
脹相は自分の手を見下ろした。
「俺は、呪いの子を孕める母から生まれた存在だ。……俺と彼女の間に、子どもができるのかも分からない」
「子どもって……まだ早くない?」
「今すぐ欲しいという話ではない。だが、するからには完璧に防げるわけでもないだろう」
言いながら、脹相の眉間に深い皺が寄った。
「そもそも、できないかもしれない。できたとして、人間と同じ姿で生まれる保証もない」
「……」
「俺の体液に、血液のような毒性があったら? 知らないうちに彼女を傷つけていたら?」
声が徐々に低くなる。
「……出産で、あいつが命を落とすようなことがあったらどうする」
最後の言葉は、ひどく苦しそうだった。
「俺は……あいつを失いたくない」
五条は少しの間、何も言わなかった。
やがて、呆れたように息を吐く。
「んー……それ、本人には聞いた?」
「言えるわけがないだろう」
「なんで? の人生でもあるんだから、二人で考えなきゃ駄目じゃん」
「……彼女を不安にさせる必要はない」
「君が一人で不安になってるんだけどねえ」
脹相は言葉に詰まった。
五条は扉の方へ顔を向ける。
「……? 入っておいで」
脹相の顔から血の気が引いた。
「……待て、五条」
「二人で話しなよ。将来のことをさ」
そう言い残し、五条はさっさと職員室を出ていった。
入れ替わるように、彼女が扉の向こうから姿を現す。