第73章 バレンタイン
「……ねえ、脹相」
「ん?」
「その手紙、ちゃんと取っておいてね」
「……分かった」
「あと、チョコも! みんなが頑張って作ってくれたんだから、大切に食べようね」
「ああ」
「……でも」
私は、彼の服の裾をきゅっと握った。
「……脹相は、私が独り占めしてもいい?」
すると、脹相は一瞬だけ目を見開いた。
それから、私の手を取り、指を絡める。
「……今日だけか?」
「え?」
「俺は、いつでも構わないが」
「…………っ」
「お前が望むなら、明日も、その先も」
彼は私の額に、そっと唇を寄せた。
「……俺は、お前のものだ」
……ああ。
やっぱり、ずるい。
こんな人を好きになったら、何度だって恋に落ちてしまう。
私は笑いながら、もう一度彼に抱きついた。
「……大好き」
「ああ。俺もだ」
テーブルの上には、たくさんのチョコレートと、一通の手紙。
そして、その隣には、私のために用意してくれていたらしい、小さな包みがひとつ。
「……あれ?」
私がそれを見つけると、脹相は少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「……それは、俺からだ」
「えっ、これが?」
「ああ。お前に似合うと思って選んだ」
私はそっと包みを開いた。
中には、可愛らしい小さなアクセサリー。
思わず顔を上げると、脹相は静かに言った。
「……喜んでくれると、いいんだが」
「…………」
「……どうした?」
私は、もう一度彼に抱きついた。
「……嬉しい。すっごく嬉しい……!」
「……そうか」
頭の上から、優しい声が降ってくる。
「なら、よかった」
その夜。
私たちはチョコレートを少しずつ味見しながら、たくさん話をした。
後輩の子たちのこと。
学校であったこと。
そして、来年のバレンタインのこと。
「……来年も、一緒に過ごそうね」
そう言うと、脹相は私の手を握り直した。
「ああ。約束だ」
その言葉が嬉しくて、私は彼の肩に寄りかかった。
窓の外は、まだ少し寒い。
けれど、繋いだ手は温かくて。
私は改めて思う。
――この人が好きだ。
そして、きっと来年も。
その先もずっと。
私は何度だって、この人に恋をする。