第73章 バレンタイン
「……え、でも、こんなに?」
「お前は、後輩に好かれているんだな」
「いや、ええ……?」
頭が追いつかない。
私が困惑していると、隣から小さな声がした。
「……俺も、用意していたんだが」
「え?」
振り向けば、脹相が少しだけ視線を逸らしている。
「先を越されてしまった」
「…………」
「帰ってきたら、渡そうと思っていた」
なんだろう。
いつもと変わらない顔なのに。
ほんの少し、拗ねているように見える。
「……ふふっ」
「何がおかしい」
「ううん。嬉しくて」
そう言って、私は脹相の腕に抱きついた。
「ありがとう。すっごく嬉しい」
「……そうか」
「うん」
彼の肩に頬を寄せる。
しばらくそうしていると、ふと思い出して、私は小さく笑った。
「……実はね」
「なんだ?」
「私、帰り道、ちょっとヤキモチ妬いてたんだ」
脹相がこちらを見る。
「……何にだ?」
「そのチョコ。脹相、モテるんだなあって」
言ってから、少し恥ずかしくなった。
「……なんか、私の知らないところで、脹相のこと好きな子がいっぱいいるんだなって思ったら、ちょっとだけ、もやもやしちゃって」
「…………」
「ごめんね? 変なこと言って」
そう笑って誤魔化そうとしたら。
脹相の手が、私の頭にそっと乗った。
「謝ることではない」
「……え?」
「お前が俺を好きでいてくれるから、そう思うんだろう」
あまりにも真っ直ぐに言われて、頬が熱くなる。
「……うん」
「なら、嬉しい」
「……嬉しいの?」
「お前が俺のことで嫉妬するのは、嫌ではない」
脹相は少し考えるように間を置いてから、私の手を握った。
「だが、心配する必要はない」
「…………」
「俺が一緒に帰りたいと思うのも、家に帰って顔を見たいと思うのも、こうして隣にいてほしいと思うのも、お前だけだ」
……ずるい。
そんなことを、そんな真面目な顔で言うなんて。