第7章 キスはいつしていいんだ?
「今日、一日中……ずっと考えていた」
「……ずっと?」
「ああ」
脹相は少し困ったように眉を下げる。
「朝も、昼も……何度か、今ならいいのではないかと思った」
「……ふふ」
「だが、そのたびに……お前を驚かせるかもしれないと思って、やめた」
「……そっか」
「だから……」
掴んでいた袖を、ほんの少しだけ握り直す。
「……いつ、していいものなんだ?」
彼女はしばらく脹相を見つめていた。
そして、ふっと柔らかく笑う。
「……したいときにしていいよ?」
「…………」
脹相が固まった。
「……本当に?」
「うん」
「……今も?」
小さく聞く。
彼女は少し照れながら頷いた。
「……うん」
その瞬間。
脹相の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
安心したような、嬉しいような
そして、どこかほっとしたような顔。
「……そうか」
彼女の頬に、そっと手を添える。
それでも、指先は少し震えていた。
「……それじゃ」
脹相がゆっくり顔を近づける。
途中で一度、彼女の目を見る。
彼女も目を閉じる。
そして――
ちゅ。
短く、優しいキス。
離れたあとも、脹相は頬に触れたまま。
「…………」
「…………」
二人とも少し照れている。
けれど昨日とは違う。
ほんの少しだけ。
キスが二人の間で「特別すぎるもの」ではなくなった気がした。
「……これからは」
脹相が小さく呟く。
「……毎回、聞かなくてもいいのか?」
「うん」
「……そうか」
しばらく考えてから。
「……では、覚えておく」
その真面目な言い方がおかしくて、私は笑ってしまう。
「ふふっ」
「……何だ」
「脹相らしいなって思って」
「……そうか?」
「うん」
私は繋いだ手を握り直す。
「じゃあ、おやすみ」
「……ああ」
少し間を置いて。
「……また明日」
今度こそ、それぞれの部屋へ戻る。
けれど脹相は扉を閉めたあと――
「…………」
静かに自分の唇へ指を触れた。
そして、昨日より少しだけ嬉しそうに笑った。
「……したいときに、か」
その言葉を何度も思い返しながら。
今度は「いつしていいんだ」と悩むことなく眠りにつけそうだった。