第7章 キスはいつしていいんだ?
昼、隣に座ったとき、彼女の肩が自分の肩に触れた。
(……今か?)
――いや。
食事のあと、二人で並んで片付けをしているとき、
彼女が振り返って、すぐ近くで笑った。
(……今なら……)
――いや、近すぎる。
彼女が驚くかもしれない。
夕方、ソファで映画を見ながら手を繋いだ。
彼女が少しだけこちらへ寄りかかってくる。
(…………今)
そう思った。
けれど、彼女が安心したように目を閉じたので、脹相は動けなくなった。
(……このままにしておこう)
そして夜。
「じゃあ、そろそろ寝ようかな」
彼女が立ち上がる。
「……ああ」
二人で廊下へ出る。
いつものように、それぞれの部屋の前まで来る。
「おやすみ、脹相」
「……おやすみ」
彼女が扉へ向き直る。
その瞬間。
「……待て」
脹相の手が、彼女の袖をそっと掴んだ。
「ん?」
振り返る彼女。
「どうしたの?」
「…………」
言えない。
昼間からずっと考えていたことなのに。
いざ本人を目の前にすると、言葉が出てこない。
「脹相?」
「……その」
一度、息を吸う。
そして、ものすごく真剣な顔で尋ねた。
「……キスは」
「うん?」
「……いつ、していいんだ?」
「…………」
彼女が目を丸くする。
脹相自身も、言ってから恥ずかしくなった。
「……いや」
少しの沈黙。
そして、彼女がほんの少し頬を赤くする。
「……脹相も、キスしたいと思ってくれてるの?」
「…………」
今度は、脹相が目を見開く番だった。
「……ああ」
少しだけ視線を逸らす。
けれど、すぐに彼女を見る。
「……したい」
その一言は、とても小さかった。
それでも、迷いのない声だった。