第70章 年末年始〜大掃除
「……あ」
五条さんの声。
「これ、懐かしい」
「何だ?」
「アルバム」
「アルバム?」
「うん。棚の奥にあった」
私は遠くからちらっと振り返った。
五条さんが大きなアルバムを手にしている。
「……」
また片付けるもの、増やしてる。
そう思ったけれど二人とも妙に静かだった。
「まあ……いいか」
私はそのまま掃除を続けることにした。
すると、背後から五条さんの楽しそうな声が聞こえてくる。
「ほら、これ」
「……これは?」
「昔の写真」
「お前が撮ったのか?」
「そうそう」
ページをめくる音。
「この頃はね、まだこんな感じだったんだよ」
「……」
脹相は黙って写真を見ているらしい。
「このときは、確か――」
五条さんが昔の話を始める。
「あの頃はこうでさ」
「そうなのか」
「うん。今じゃ想像つかないでしょ?」
「……確かに」
「このときなんて、こんなことがあってね」
「それは……」
脹相が興味深そうに相槌を打つ。
私は手を止めず、二人の会話をぼんやり聞いていた。
「この頃はああだった」
「なるほど」
「それで、このときはこう」
「……そうだったのか」
五条さんが楽しそうに話し、脹相が真剣に聞いている。
なんだか妙な組み合わせだ。
「……何話してるんだろ」
私は小さく呟く。
もちろん、私の昔の話なのだろう。
でも、わざわざ聞きに行くほどでもない。
それに――。
「静かなら、まあいいか」
私はそう思って、また掃除に戻った。
しばらくすると、またページをめくる音がする。
「これは?」
「これはね――」
五条さんがまた何か話し始める。
脹相はそれを聞いて、時々「ほう」と頷いている。
私は二人をちらっと見る。
五条さんはすっかり楽しそう。
脹相は思った以上に真剣。
そして私は、一人で大掃除。
「……なんか変なの」
思わず笑ってしまう。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
むしろ――。
私のいないところで、私のことを知ろうとしてくれている脹相の姿が、少しだけ嬉しかった。
だから私は、二人をそのままにしておくことにした。
「じゃあ、そこ終わったら次こっち……」
大掃除は、まだまだ続く。
その間も背後では、五条さんの昔話と、それを聞く脹相の声が途切れることなく続いていた。