第66章 クリスマス〜朝
「……まあ、いいや」
五条さんが顔を上げる。
「でもさ」
「何だ?」
「僕、一応あの子の保護者なんだよね」
「さっき聞いた」
五条さんが、にやりと笑う。
「結婚するとき、ごねちゃうよ?」
「……」
脹相が黙る。
冗談だと分かっている。
分かってはいるが、脹相は少しだけ考えた。
もし、本当にそんな日が来たら。
と結婚したいと思ったときに、五条が反対したら。
「……それは困るな」
ぽつりと呟く。
「え?」
五条さんが目を丸くする。
「そこは『好きにしろ』とか言うところじゃないの?」
「いや」
脹相は真面目な顔で五条を見る。
「困る」
「……」
「俺は、あいつと一緒にいたいからな」
「……へぇ」
五条さんの口元が、ゆっくりと上がる。
「そっかそっか」
「何だ?」
「いやぁ」
五条さんは楽しそうに笑った。
「思ったより本気なんだなぁと思って」
「……当たり前だ」
「はいはい」
五条さんは肩をすくめる。
「じゃあ、そのときはちゃんと考えてあげるよ」
「……頼む」
「ふふ」
そのとき。
「お待たせー!」
廊下の向こうから、私の声が聞こえてきた。
二人が同時にそちらを見る。
「バッグ持ってきた」
私はバッグを抱えて戻ってくる。
「ごめんね、待たせちゃった」
「大丈夫だ」
脹相が答える。
五条さんは、そんな二人を見ながら楽しそうに笑った。
「じゃあ、行っておいで」
「うん!」
私は脹相の隣に並ぶ。
「楽しんできなよ」
「行ってきます!」
玄関を出る直前、五条さんが私の頭をぽんと撫でる。
「また帰っておいで」
「もちろん」
私は笑って頷いた。
そして、脹相と一緒に外へ出る。
扉が閉まるとその向こうで、五条さんが小さく笑った。
「……結婚ねぇ」
少しだけ寂しそうに。
でも、どこか嬉しそうに。
「まあ、そのときはちゃんと大事にしてもらいなよ」
誰もいなくなった玄関で、五条さんが小さく笑う。
「僕が大事にしてきた分までね」
脹相が私の隣に並ぶ。
冷たい冬の空気の中へ、一緒に歩き出す。
昨日は五条さんと。今日は脹相と。
それぞれ大切な人と過ごす、二日間。
今年のクリスマスは、きっと忘れない。