第66章 クリスマス〜朝
「バッグ取ってくる!」
そう言って、私は部屋へ戻っていった。
その後ろ姿を、五条さんが目で追う。
廊下の向こうへ私の姿が消えると、五条さんは、ふっと息を吐いた。
「……ごめんね~?」
「何がだ?」
「あの子、昨日から僕が独り占めしちゃって」
そう言いながらも、声はいつもの軽い調子に戻っている。
昨日の夜、私にだけ見せていた寂しげな表情は、もうどこにもない。
「本当は昨日も一緒に過ごしたかったでしょ?」
脹相は、私が戻っていった方を見る。
「……別に。あいつが望んだことなら構わない」
「へえ」
「お前がと過ごしたかったかどうかは知らん」
「僕の気持ちはどうでもいいんだ?」
「ああ」
「うわ、冷たいなぁ」
五条さんは笑う。
脹相は特に気にした様子もない。
「俺は、あいつがどうしたいかを尊重するだけだ」
「なるほどねぇ」
「昨日、あいつはお前のそばにいたかった」
「うん」
「だから、そうした」
「今日は?」
「今日は俺と過ごしたいと言った」
「そっか」
五条さんは、にこにこと笑っている。
「じゃあ、僕のことは?」
「どうでもいい」
「ひどくない?」
「お前がどう思っているかは、俺には関係ない」
「いやいや、僕一応あの子の保護者なんだけど」
「知っている」
「もっとこう……気を遣ってくれてもよくない?」
「必要ないだろう」
「えー」
五条さんがわざとらしく肩を落とす。
昨日の夜、私の前で見せていた弱さなど微塵も感じさせない。
いつもの、掴みどころのない男。
脹相も、それ以上は何も言わなかった。
昨日、彼女自身がここに残ることを選んだ。
それだけで意味として十分だった。