第6章 初めてのキス
扉を閉める。
カチャン。
静かになった。
「…………」
脹相はそのまま、扉に背中を預けた。
数秒。
何も考えないようにする。
――無理だった。
「…………」
ゆっくり顔を伏せる。
「……もう一回、してくれる?」
さっきの言葉が頭の中で再生される。
その瞬間。
「…………っ」
脹相は片手で顔を覆った。
耳まで熱い。
「……駄目だ」
誰もいないのに、小さく呟く。
「……落ち着け」
深呼吸したってまったく落ち着かない。
むしろ、呼吸するたびに思い出してしまう。
彼女が自分を見上げていたこと。
少し恥ずかしそうに「もう一回、してくれる?」と言ったこと。
そして――
自分から顔を近づけて、唇を重ねたこと。
「…………」
ベッドに腰を下ろす。
そのまま後ろへ倒れ込み天井を見つめる。
「……俺は……」
何度目か分からないため息。
「……普通にできていただろうか。」
普通ではない。
全然、普通ではなかった。
胸の鼓動が、まだ速い。
頬も熱い。
唇に残っているような感触まで、妙に鮮明だった。
脹相は枕を引き寄せ、顔を埋める。
「…………」
しばらくそのまま動かない。
そして。
「……また今度、か」
ぽつり。
彼女は「今度もしてくれる?」と言った。
つまり――
もう一度してほしいと思ってくれたということだ。
「…………」
枕を抱える腕に、少し力が入る。
嬉しい。
それがどうしようもなく嬉しい。
「……俺も」
誰にも聞かれないような小さな声。
「……また、したい」
言葉にした途端、恥ずかしさが一気に込み上げてくる。
「…………っ」
脹相は枕に顔を押しつけた。
しばらくして、枕の向こうからくぐもった声が漏れる。
「……次は、俺から……」
そう呟いたあと。
想像してしまう。
彼女の部屋の前で、また顔を合わせて。
「おやすみ」と言って。
そして――自分から。
「…………」
脹相は勢いよく枕を抱きしめ直した。
「……無理だ」
けれど、口元は隠しきれないほど緩んでいた。
初めてキスをした夜。
脹相はそのあとしばらく、枕を抱えたまま一人で悶えていた。
そして結局眠りにつく直前まで、
「……もう一回、してくれる?」
という彼女の声が、頭から離れることはなかった。