第62章 ハロウィン〜ボツ
「あ、脹相」
振り返る。
そこには脹相が立っていた。
「……」
脹相の動きが止まる。
「脹相?」
「…………」
何も言わない。
ただ、私を見ている。
「どうしたの?」
「……」
脹相は答えない。
頭の中が、完全に混乱していた。
――可愛い。
最初に浮かんだのは、それだった。
黒い衣装。
いつもと違う髪型。
赤い色。
そして、少し恥ずかしそうにこちらを見る顔。
可愛い。
あまりにも可愛い。
だが。
「ほら、脹相」
五条が面白そうに声をかける。
「吸血鬼っていうよりサキュバスっぽいでしょ?」
「……」
サキュバス。
脹相はその言葉を頭の中で繰り返す。
意味は知っている。
知っているからこそ、余計に顔が熱くなる。
けれど。
吸血鬼でも。
サキュバスでも。
「…………どちらでも」
「ん?」
「どちらでも……可愛い」
ぽつり。
「…………」
五条が黙る。
私も黙る。
脹相自身も、自分で言ってしまったことに気づいた。
「……」
耳まで真っ赤になる。
「脹相……」
「違う」
「何が?」
「いや……違わない」
何を言っているのか、自分でも分からなくなってきた。
五条が肩を震わせている。
「脹相、顔真っ赤じゃん」
「……うるさい」
「そんなに嬉しかった?」
「……」
脹相は答えない。
代わりに、両手で顔を覆った。
「……無理だ」
「何が?」
「どちらでも可愛い」
「さっきからそれしか言ってないよ?」
五条が笑う。
私は呆れながら自分の服を見る。
「私は全然嬉しくないんだけど……」
「俺は嬉しい」
「……」
脹相が顔を覆ったまま、ぽつりと言った。
「……とても」
その一言だけで、私の顔まで熱くなってしまった。
五条はそんな二人を見て、ますます楽しそうに笑う。
「ほらね。着て正解だったでしょ?」
「五条さん」
「はい?」
「あとで覚えててね」
「え、僕何も悪いことしてないよ?」
「してるでしょ!」
「理不尽!」
五条の声が廊下に響く。
その横で脹相は、まだ顔を覆ったままだった。
けれど、その指の隙間から見える目は
何度も、嬉しそうに私の姿を追っていた。