第62章 ハロウィン〜ボツ
ハロウィン当日。
高専では、朝から皆がいつもより少し浮き足立っていた。
私は皆に配るお菓子を渡し終え、そろそろ帰ろうとしていたところだった。
「ねえねえ」
「何ですか、五条さん」
後ろから肩を叩かれて振り返る。
五条さんが、やけに楽しそうな顔をしていた。
「これ、着てみない?」
差し出されたのは、黒を基調としたハロウィン用の衣装だった。
「……何これ」
「仮装」
「見れば分かります」
「吸血鬼っぽいやつ。絶対似合うと思うんだよね」
「いや、私はいいです」
「えー」
即答すると、五条さんは不満そうに声を上げる。
「絶対似合うのに」
「そもそも私、そんなに仮装したいわけじゃないので」
「でもさ」
五条さんがにやっと笑う。
「脹相、喜ぶと思うよ?」
「……」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
「……脹相が?」
「うん」
「……」
確かに。
脹相はハロウィンのことをよく知らないながらも、朝から私が作ったお菓子を嬉しそうに受け取っていた。
仮装の話をした時も。
――見てみたいな。
そう、ぽつりと言っていた。
「……」
私は衣装を見る。
「……ちょっとだけなら」
「よし!」
五条さんが満足そうに笑った。
そしてしばらくして。
「どう?」
着替えて出てきた私を見た五条さんは、しばらく黙った。
「……うん」
「何?」
「思ってたよりすごい」
「だから言ったじゃないですか。こういうの恥ずかしいって」
「いやいや、そうじゃなくて」
五条さんは楽しそうに私の姿を眺める。
黒を基調とした衣装。
レースのついた袖。
赤いリボン。
少しだけ大胆なデザイン。
「これ、バンパイアっていうより――」
「何ですか」
「サキュバスみたい」
「……」
笑顔が消える。
「……嬉しくないんだけど」
「えー、褒めてるよ?」
「褒めてないでしょ」
「褒めてる褒めてる」
「五条さん」
「はい」
「ちょっとこっち来て」
「怖い怖い」
私が詰め寄ると、五条さんは笑いながら逃げる。
そんなやり取りをしていると。
「……何をしている」
背後から声がした。