第59章 背中の開いたニット
すると脹相は、ふと彼女の背中へ視線を戻した。
露わになった肌。
さっきから、どうしても目が離せない。
ゆっくりと、背中に手を添える。
「……それに」
「うん?」
「こんなに近くにいるのに、まだ足りない」
そう呟いて、首筋へ唇を寄せる。
優しいキスがひとつ。
そして、ゆっくりと下へ。
肩へ。
開いた背中へ。
「……脹相」
呼ばれて、動きが止まる。
「嫌なら言ってくれ」
そう囁いてから、もう一度。
背中へ、そっと唇を落とす。
一度。
それから、もう一度。
大切なものを確かめるような、ゆっくりとしたキス。
彼女の身体が小さく震える。
それに気づいた脹相は、腰を抱く腕をさらに優しくした。
「……寒いのか?」
「違う」
「なら、俺のせいか?」
「……うん」
その答えを聞いて、脹相はほんの少しだけ目を細めた。
「そうか」
どこか満足そうな声。
そして彼女を胸元へ引き寄せる。
「……急ぎの用事じゃないなら」
「うん?」
「今日は家で俺と過ごそう」
「外に行かないの?」
「行かなくていい」
脹相はまっすぐ彼女を見る。
「お前がここにいてくれれば、それでいい」
少しだけ間を置いてから、静かに続ける。
「そんなに一緒にいたい?」
「そうだ」
迷いのない答えだった。
「お前と家にいるのが好きだ」
そして、もう一度髪に口づける。
「何かをする必要もない。ただ、お前がここにいてくれればいい」
「じゃあ今日は、ずっと一緒にいる」
そう答えると、脹相は安心したように息を吐いた。
「……それならいい」
彼女を抱きしめたまま、脹相は目を閉じる。
どうしてこんなに好きなのか。
どうして、何度見ても飽きないのか。
自分でも分からない。
ただ一つだけ、はっきりしていることがある。
――誰にも渡したくない。
この腕の中にいる温もりを。
自分だけが知っている表情を。
自分だけに向けられる笑顔を。
「……困るな」
「何が?」
「お前のことが好きすぎる」
耳元でそう呟いてから、脹相は彼女をもう一度強く抱きしめた。