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②呪術廻戦〜脹相と恋人〜

第60章 ハロウィン〜朝の妄想


朝から、甘い匂いが家中に漂っていた。

「……何をしているんだ?」

キッチンに立つ私の背後から、低い声がする。

「お菓子作ってるの。今日はハロウィンだから、みんなに配ろうと思って」

「ハロウィン……」

脹相は私の隣までやって来ると、テーブルの上に並んだクッキーや小さな焼き菓子をじっと見つめた。

「これを、皆に?」

「うん。今日会う人たちに配るの」

「そうか」

納得したように頷いたあと、脹相は少し考えるように黙った。
そして、ふと私を見る。

「……俺も、トリック・オア・トリートと言えば貰えるのか?」

「え?」

あまりにも真面目な顔で言うものだから、思わず笑ってしまった。

「もちろん。やってみる?」

「……ああ」

脹相は少し姿勢を正した。
そして私の目をまっすぐ見つめる。

「トリック・オア・トリート」

「はい、どうぞ」

私は笑いながら、小さな袋に入れておいたクッキーを彼の手のひらに乗せた。

脹相はそれを見つめる。

「……貰えた」

「うん」

「これが、ハロウィンか」

「そうそう」

どこか嬉しそうな脹相を見て、私はまた笑った。
すると、彼がクッキーの袋を眺めながら呟く。

「だが、菓子を用意していなかったらどうなる?」

「え?」

「今の言葉だ。トリック・オア・トリート。菓子を用意していなければ……」

「ああ、それ?」

私は少しだけ悪戯っぽく笑った。

「お菓子を用意しておかないと、イタズラされちゃうんだよ」

「……イタズラ?」

「そう」

脹相は眉を寄せた。

「何をされるんだ?」

「それは人によるよ」

「人による……?」

「うん。可愛いイタズラだったり、ちょっと困るようなイタズラだったり」

「そうか……」

脹相は真剣な顔で頷いた。

「例えば?」

「うーん……」

私は少し考えてから、ふと思い出したように言う。

「ああ、五条さんのイタズラなんて、笑えないんだよ。絶対に阻止しないと……」

「五条……」

脹相の表情が僅かに険しくなる。
けれど、私はそんな彼に気づかず、今日のためのお菓子の数を確認していた。

「去年なんて少し遅れただけだったのに本当に大変だったんだから。あの人、絶対今年も何かやってきかねない……」

「…………」

脹相の意識は、いつの間にか別のところへ飛んでいた。


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