第59章 背中の開いたニット
「……それで、外に出るつもりか?」
背後から、低い声が落ちてきた。
振り返ると、脹相がじっとこちらを見ている。
今日は、少しだけ気分を変えたくて、だぼっとしたニットを選んだ。
髪も高い位置でお団子にまとめている。
けれど、そのニットは背中が大きく開いていた。
鏡の前では気にならなかったのに、脹相の視線を浴びると、急にその部分だけ意識してしまう。
「……変?」
そう尋ねると、脹相は答えなかった。
ただ、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
「変ではない」
「じゃあ――」
言葉の途中で、背中から腕が回された。
ぎゅ、と身体を包み込まれる。
「……っ」
脹相の胸板が背中に触れ、首筋に彼の吐息がかかった。
そのまま、吸い寄せられるように顔を首元へ埋められる。
「……脹相?」
「……似合っている」
くぐもった声。
けれど、抱きしめる腕にはいつもより力がこもっていた。
首筋に鼻先を寄せるようにして、しばらく離れない。
「でも」
ようやく顔を上げた脹相が、開いた背中を見つめる。
「この格好で外には出るな」
「え?」
「……俺以外の男に見せる必要はない」
あまりにも真剣な顔で言うものだから、思わず笑ってしまう。
「嫉妬してる?」
「……そうだ」
即答だった。
「お前が思っているより、俺は嫉妬深い」
そう言って、再び抱きしめられる。
今度はさっきよりもゆっくりと。
首筋に触れていた唇が、ほんの少しずつ下へ降りていく。
肩へ。
そして、ニットの開いた背中へ。
「……脹相」
名前を呼ぶと、彼の動きが一度止まった。
けれど、離れることはなく。
「嫌なら言ってくれ」
低く囁いてから、背中へそっと唇が触れた。
柔らかなキス。
一度。
そして、もう一度。
まるで大切なものを確かめるように、ゆっくりと。
背中に残る唇の感触に、身体が小さく震える。
それに気づいた脹相が、腰へ腕を回した。
「……寒いのか?」
「違う」
「なら、なんだ」
「……脹相のせい」
そう答えると、彼はしばらく黙った。
やがて耳元で、小さく息を吐く。
「……俺のせいなら、もう少しだけこのままでいさせてくれ」
そう言って、また背中に優しいキスを落とした。