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②呪術廻戦〜脹相と恋人〜

第57章 小さな幸せ



「……何だ」

ようやく声を出す。

「何でもないよ」

彼女が笑う。

「ただ、脹相にくっつきたかっただけ」

「…………そうか」

それしか言えない。

本当は俺も、お前にくっついていたい。
ずっと、このままでいたい。

だが、そんなことを言ったら、今よりさらに恥ずかしくなりそうで。

だから代わりに背中から回された彼女の手へ、自分の手を重ねる。

ぎゅ、と。

少しだけ握る。

「……?」

「何でもない」

そう答えるが、心の中では

(離れないでくれ)

と思っている。

しばらくして、彼女が俺の肩に頬を乗せた。

「脹相」

「何だ」

「呼んだだけ」

「……そうか」

(…………幸せだ)

耳元で名前を囁かれるのも。
背後からトタトタと近づいてくるのも。
ひょっこり顔を出してくれるのも。
突然抱きついてくるのも。

全部好きだ。

どれか一つを選べと言われても困る。
どれも違う嬉しさがある。

足音が聞こえれば、「来た」と思って嬉しくなる。

足音が聞こえなければ、突然抱きつかれて驚きながら嬉しくなる。

顔を覗かせれば、その顔が可愛くて嬉しい。

耳元で名前を呼ばれれば、心臓が跳ねるほど嬉しい。

抱きつかれれば、背中から伝わる温もりが嬉しい。

 ……結局。

(お前なら、何をされても嬉しいのかもしれない)

 そう思ってしまう。

 俺の名前を呼んで。

 俺のところへ来て。

 俺に触れて。

 俺を見て笑ってくれる。

 それだけでいい。

 それだけで、こんなにも満たされる。

「脹相?」

「何だ」

「またぼーっとしてる」

「……考え事をしていた」

「何考えてたの?」

「…………」

答えられない。

今、俺が考えていたことをそのまま言えば。

きっとお前は笑う。

だから。

「……お前のことだ」

「私?」

「ああ」

それだけ言う。

「何それ」

お前が笑う。

その声を聞いて。

(……やっぱり、幸せだ)

少しずつ近くなっていく、お前との距離。

その全部を、俺は覚えている。
そしてきっと、これから先、もっと近くなっていくのだろう。

(……それも、きっと幸せだ)

そう思いながら
俺は背中にいるお前の手を、もう一度そっと握った。
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